メドケム — 2026年10月
2026-10-23 4件
BRD9 PROTACがマウスで効きにくい理由と、E3のヒト化による解決策
- dBRD9やVZ185など広く使われるCRBN系・VHL系のBRD9分解薬は、BRD9自体の配列が高度に保存されているにもかかわらず、マウス細胞では活性が大きく低下する。
- 原因はE3リガーゼの種差、特にCrbnのI391残基とVHLの構造差にあり、三者複合体の形成を妨げていると考えられる。
- ヒトCRBNまたはVHLの発現、あるいはCrbnI391V変異の導入で、マウス細胞での活性が回復し、生体内のBRD9分解も向上した。
ヒト細胞株では見事に効くPROTACが、マウスの薬効試験では効かない。そんな経験のある人にはなじみのある話だ。げっ歯類での分解薬のPK/PDは、化合物ではなくE3の違いで失敗しうるので、CrbnI391Vやヒト化E3のモデルは早めに用意する価値がある。生体内で陰性でも、種をまたいだ三者複合体形成を調べるまでは、そのシリーズを打ち切るべきではない。
Improving PROTAC-Mediated Degradation in Mouse Models: BRD9 as a Case Study ↗
ピロロキノリン系の抗微小管薬、パクリタキセル・ダウノルビシン耐性細胞でも活性を維持
- 1H-ピロロ[3,2-c]キノリンのライブラリを合成してSARを整理し、ナノモルレベルの低い濃度で増殖を抑え、正常線維芽細胞に対する選択性が非常に高い化合物を得た。
- 最良の誘導体は、ダウノルビシン耐性株やパクリタキセル耐性株でも活性を保ち、排出比も低く、交差耐性が限定的であることを示唆した。
- リード化合物は吸収が速く、半減期は中程度で、脳移行性は限定的だったが、ゼブラフィッシュ胚への毒性は治療域の狭さを示した。
P-gp排出を回避する微小管作動薬はいつでも関心を集めるし、排出比の低さと耐性株での活性維持は最初のフィルターとして妥当だ。ゼブラフィッシュの結果は正直な落とし穴で、強力な抗有糸分裂薬は安全域が狭いことが多く、培養細胞で線維芽細胞に選択的でも安全性の答えにはならない。次は結合部位と、この骨格をどこまで治療域の広い方向に調整できるかを見たい。
パルミトイル化を阻害する経口STING阻害剤、炎症モデルで効果
- 研究チームは、インターフェロン異常症や自己免疫疾患に関わる自然免疫アダプターSTINGの阻害剤として、テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピラジン骨格のシリーズを構築した。
- リード化合物37は、細胞での強いSTING阻害に加え、良好な経口曝露と安全性を示した。
- 作用機序はSTINGのパルミトイル化の阻止で、下流シグナルの活性化を抑える。
- 経口投与により、化学物質誘発の急性モデルやTrex1欠損マウスなどで炎症が軽減した。
STING阻害剤はこれまでツール化合物か共有結合性のものが中心だったので、パルミトイル化を止める経口投与可能なケモタイプは、標的への別のアプローチになる。実際にCys91ポケットに結合するのか、もっと上流で働くのかが気になる。他のパルミトイル化タンパク質への選択性がそこで決まるからだ。自己免疫疾患への適用では、Trex1欠損マウスの結果が説得力を持つ。
ループス向けTLR7/8デュアル拮抗薬からBRD4リスクを設計で排除
- 2-(ピリジン-2(1H)-オン)インドールの構造ベース最適化により、従来シリーズより膜透過性が高く、イオンチャネル活性と分布容積が小さいTLR7/8デュアル拮抗薬が得られた。
- 初期のピリドンリードは予想外に免疫細胞の増殖を抑え、チームはBRD4へのオフターゲット結合が原因と推定した。
- BRD4結合を取り除く最適化により、増殖抑制は消え、ヒト全血でのTLR7/8依存的IL-6産生の強力な阻害は維持された。
細胞パネルでの不可解な毒性から機構の仮説を立て、SARで二つの活性を切り分けるという、表現型起点のオフターゲット対策のきれいな例だ。エンドソームのTLR7/8拮抗薬には膜透過性と高い選択性の両立が必要で、平面性の高いヘテロ芳香族はBRD4という落とし穴にはまりやすい。他の骨格に応用する前に、TLR7/8二量体界面でのピリドンの結合様式を確認したい。
2026-10-22 6件
吸入投与を前提に設計したピロロピリミジン系DDR1/2阻害剤、肺線維症を標的に
- 構造ベース設計により、DDR1/DDR2に強い親和性と良好なキノーム選択性を示す2つの5:6複素環シリーズを得た。
- 続いて吸入を前提とした設計で、活性・物性・in vitro ADMEを肺内局在型に最適化した。
- 化合物25は、TGF-β誘導の線維化モデルで抗線維化作用を示し、局所投与に適した薬物動態を備えていた。
吸入キナーゼ阻害剤は、肺内滞留と全身クリアランスのバランスで成否が決まる。全身投与型化合物を後から改造するのではなく、最初からそこを狙って設計するのは正しい選択だ。注意したいのはリソソーム捕捉や粘液線毛クリアランスで、in vitro ADMEでは捉えにくい。DDRの生物学は線維症で説得力があるが、臨床での検証はまだ待たれる標的である。
Lung-Tailored Pyrrolo-pyrimidine DDR Inhibitors Designed for Optimized Local Delivery ↗
キノーム全体で高選択的かつ経口投与可能なマクロ環CDK7阻害剤
- 17員環マクロ環のピラゾロトリアジン骨格を構造に基づいて最適化し、強力なCDK7阻害剤を得た。
- 400種超のキナーゼパネルで有意なオフターゲット活性はなく、既存CDK7阻害剤の選択性の低さを克服している。
- 細胞では細胞周期停止と転写抑制、c-Myc低下を示し、特にトリプルネガティブ乳がん細胞で顕著だった。経口バイオアベイラビリティも良好で、薬物動態は線形だった。
CDK7で400種超のキナーゼにわたりクリーンな結果が出るのは珍しい。この分野の共有結合阻害剤はTHZ型の弾頭に頼ってきたからだ。非共有結合のマクロ環で経口曝露も取れているなら、転写依存性の適応症で実際に手に取りたいプロファイルである。残る問いはオンターゲット毒性で、キナーゼ間の選択性だけではCDK7の正常な転写での役割に起因する毒性は避けられない。
非ATP競合型MKK3モジュレーターが潰瘍性大腸炎モデルでTNF-αを抑制
- ATP競合型p38阻害剤はキノーム選択性の低さなどで臨床で失敗したため、上流キナーゼMKK3の非ATP競合ポケットを狙った。
- リード化合物(R)-48はTNF-α産生を抑え、経口バイオアベイラビリティが高く、マウス潰瘍性大腸炎モデルで用量依存的な効果と明確なPK/PD関係を示した。
- 結合様式の検証にはHDX-MSなどの生物物理データを用いている。
p38の一段上流に移るのは、第一世代阻害剤を沈めた選択性の問題を回避する理にかなった方法だ。UC向けの経口TNF低下低分子が出てくれば、注射剤のバイオ医薬品とは明確に別の選択肢になる。気になるのはアロステリックなポケットで、ATP部位以外に結合するキナーゼ阻害剤のSARは急峻で種差も出やすいので、ヒトタンパクでのデータを早めに確認したい。
フマル酸エステルを付加したTTK阻害剤がRNF126経由の一価分解薬に
- TTK阻害剤に求電子性のフマル酸モノメチルを付けるだけで、E3リガンドを持たない単一弾頭の分解薬が得られた。
- 代表化合物はTTKを分解し、複数のがん細胞株で元の阻害剤より強い増殖抑制を示した。
- 機構解析では、化合物がE3リガーゼRNF126とTTKの会合を安定化し、ユビキチン化とプロテアソーム分解を促すと示唆された。
一価分解薬の魅力は、阻害剤並みの分子量と膜透過性を保てることだ。ただしフマル酸ハンドルはシステイン反応性の基なので、RNF126だけで説明できるかはプロテオーム規模の反応性データを見てから判断したい。それでも他のキナーゼ骨格に使い回せるなら、手持ちの阻害剤シリーズで試す価値のある安上がりな手だ。
求電子剤優先スクリーニングでE2酵素UBE2D2の共有結合型アミノチアゾール阻害剤を同定
- 求電子剤を先に選ぶスクリーニングとX線結晶構造解析により、UBE2D2の2つのシステイン(C85とC111)に結合する共有結合性ヒットを得た。
- アミド基とエステル基を構造に基づいて改変し、C111への結合を消してC85への親和性を高めた。
- 最適化類縁体はUBE2D2の酵素活性を阻害し、A549肺がん細胞の増殖を抑えた。
E2酵素は創薬困難と見なされてきたので、結晶構造に裏づけられた共有結合シリーズが出てきたこと自体が前進だ。注目は2つ目のシステインへの結合を設計で消した点で、プローブと呼ぶには必須の作業である。次に知りたいのはUBE2Dファミリーの他メンバーへの挙動で、活性中心システインは保存されているため、選択性が最大の難所になる。
YKS-34:特発性肺線維症を狙う、PDE4Bに1000倍超選択的な阻害剤
- 承認済みの唯一のPDE4B優先阻害剤nerandomilastはPDE4Dに対し約9倍の選択性にとどまり、これを改善することが出発点だった。
- YKS-34は強力なPDE4B阻害剤で、PDE4A、4C、4Dにはいずれに対しても1000倍超の選択性を示す。
- in vitroでTGF-β誘導の線維芽細胞活性化とLPS誘導のTNF-α放出を抑え、良好な薬物動態と肺組織への集積を示した。
悪心・嘔吐の原因はPDE4D阻害なので、9倍から1000倍超へという改善は狙う価値のある最適化だ。BとDのポケット差はごくわずかなので、結合様式がどうなっているのか気になる。盛り上がるのは、ブレオマイシンモデルで治療的投与の結果を見てからにしたい。
2026-10-21 4件
DNAベースPROTACがTKI耐性肺がんモデルでCENPBを分解
- セントロメアの配列特異的DNA結合タンパク質CENPBは悪性度の高いがんで過剰発現するが、直接の阻害剤はない。
- CENPB OligoTACは、CENPB結合性オリゴデオキシヌクレオチドとE3リガーゼリガンドを連結した分子で、CENPBのユビキチン化とプロテアソーム分解、セントロメア破壊、アポトーシスを誘導する。
- 第1〜3世代のTKIに耐性のNSCLCモデルで有効で、正常細胞への毒性は小さく、血清中安定性も良好、in vivoでPKと忍容性も良好だった。
タンパク質自身のDNA認識配列をそのままウォーヘッドにするので、低分子が入るポケットが要らない。転写因子のような標的にとって魅力的なアプローチだ。気になるのはマウス以外での送達、オリゴ製造コスト、そしてCENPBはあらゆる細胞に発現するため、腫瘍選択性が本当に保たれるかという点である。
Centromere-Targeting Chimeras for Combating Cancer Drug Resistance ↗
効力を保ったままhERGを下げたDCN1–UBE2M相互作用阻害剤
- 先行ツール化合物NAcM-OPTはDCN1–UBE2M相互作用を阻害し、経口投与でき、異種移植腫瘍の増殖も抑えたが、hERGへの有意な親和性が開発のネックだった。
- 著者らは骨格を系統的に修飾し、DCN1への結合を保ちつつhERG結合を低減させた。
- 得られた化合物110は、生化学的・細胞での効力は親化合物と同等で、物性が改善し、hERGに対する選択性も向上した。
心毒性で行き詰まった検証済みPPIケモタイプを、SARだけで立て直した地味だが重要な続編だ。塩基性で脂溶性の高いPPI阻害剤を抱えているなら、ファーマコフォアを手放す前に、hERGは構造修飾で外せるかどうかを自分のシリーズで確かめる価値がある。
総説:構造ガイド設計はいかにFGFR3選択的阻害剤を実現したか
- 第二世代のpan-FGFR阻害剤はコンセプトを実証したが、FGFR1・2・4の阻害に伴う毒性が制約となっていた。
- ファミリー内の構造相同性は高いにもかかわらず、構造ガイドの取り組みにより、臨床評価に入った初のFGFR3選択的阻害剤が生まれた。
- 本Perspectiveは、生物学的根拠、選択性を生む設計戦略、膀胱がんや軟骨無形成症など新たな適応を扱う。
高度に保存されたキナーゼファミリー内でのアイソフォーム選択性は、構造ベース設計の到達点を測る好例で、FGFR3には臨床段階の答えが出てきた。注目は軟骨無形成症だ。慢性かつ小児に近い適応では忍容性のハードルが腫瘍領域よりずっと高く、選択性の価値がまさに効いてくる。
マウスで単回投与治癒を示したピラジン-2-カルボキサミド系抗マラリア薬が第1相へ
- 熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)の増殖阻害スクリーニングから、赤血球期マラリア向けの新規ピラジン-2-カルボキサミド系列が見出された。
- リード最適化で抗原虫活性と代謝安定性を高め、CYP2D6阻害リスクを下げてIWY357に到達した。
- Pfヒト化SCIDマウスモデルで単回投与により完全に治癒し、薬剤耐性選択でも高い耐性障壁を示し、GLP毒性試験を経て第1相試験に進んだ。
フェノタイプ由来のヒットが、ヒト化マウスでの単回投与治癒を示してそのまま臨床に進んだ。一次治療薬への耐性が広がる中で、この分野が待っていた形だ。CYP2D6の問題を解消した点は、短期レジメンの本命となる併用療法で効いてくる。単回投与という主張は曝露量次第なので、ヒトPKに注目したい。
2026-10-20 4件
エポキシスクシナミド弾頭はPLproに強力だが、ヒドラジドリンカーが代謝の弱点に
- Cys-111と反応するエポキシスクシナミド弾頭に、非共有結合型阻害薬で用いられるBL2溝への結合要素を組み合わせ、共有結合型PLpro阻害薬を設計した。
- 化合物は非常に高い酵素活性を示し、培養細胞でウイルス力価を大きく低下させた。
- 柔軟なヒドラジドリンカーは肝臓のカルボキシルエステラーゼで分解され、代替リンカーも奏功せず、代謝面が制約となった。
強力な弾頭が肝臓で壊れるのはよくある話だが、ここでは壊れるのがCys-111に届かせるために必要なリンカーそのものだ。次のコロナウイルスに備えてエポキシスクシナミドは手元に置いておきたい。ただ、最初に作り直すのはリンカーだろう。
Discovery of Epoxysuccinates as Potent Covalent Inhibitors of SARS-CoV-2 Papain-like Protease ↗
サルパリブのカルボキサミドを置換し、経口・脳移行性のPARP1選択的阻害薬を創出
- 脳腫瘍を狙い、サルパリブのカルボキサミドを各種複素環に置き換え、血液毒性を抑えるためPARP2よりPARP1を選択的に阻害する化合物を探索した。
- 通常のMDR1-MDCKではなくCaco-2排出を選別指標に用い、脳内の非結合型曝露が良好な化合物を選んだ。
- 選ばれた化合物は経口バイオアベイラビリティを示し、低用量の異種移植モデルで腫瘍退縮を示した。臨床用量も低く見積もられている。
一次カルボキサミドの置換は大胆だ。この基はニコチンアミドポケットのアンカーなので、複素環で結合が保たれたのは見どころになる。もっと使えるのは選別法で、Caco-2排出のほうが脳内非結合型曝露をよく反映するなら、他のCNS創薬でも良い化合物を落としているかもしれない。
PROTACの標的結合のばらつきは、E3認識よりも細胞内曝露の差が大きい
- E3リガンド、リンカー、標的リガンドが異なる20種のPROTACを、セレブロンおよびVHLトレーサーに対する細胞内NanoBRET競合アッセイで評価した。
- 添加濃度基準では見かけの活性が大きくばらつき、受動的なCaco-2透過性ではほとんど説明できなかった。
- 実測した細胞内非結合型曝露で補正するとばらつきは大幅に縮小し、膜透過処理した細胞での値と一致した。
PROTACのSAR表をE3親和性の差として読む前に、細胞が実際に見た濃度を確かめたくなる。ばらつきの大半が非結合型曝露なら、活性向上に見えたリンカー修飾は透過性の改善にすぎないかもしれない。曝露を早期に測れば、見当違いの変数を追わずに済む。
AlphaLISAスクリーニングでISG15–UBA7相互作用の阻害剤探索が可能に
- ISG15とそのE1酵素UBA7はISG化を担い、がんの治療抵抗性との関連が指摘されるが、阻害薬はまだない。
- 著者らはISG15–UBA7相互作用を測るAlphaLISAアッセイを構築し、ハイスループット向けの頑健性を確認した。
- 小規模ライブラリーのパイロットスクリーニングでヒットが数個得られ、うち2つは細胞内でもISG化を低下させた。
対象は千化合物に満たないパイロットなので、ヒットは出発点にすぎずリードではない。大事なのは、ユビキチン様修飾因子とE1のタンパク質間相互作用がスクリーニング可能な形になった点だ。実際の多様性ライブラリーで回し、AlphaLISA干渉物のカウンタースクリーンを徹底したい。
2026-10-19 2件
承認済みアントラサイクリン系薬を1分子の光増感剤へ転用する化学光線療法
- 承認済み抗がん剤の厳選ライブラリーをTD-DFTでスクリーニングし、光物性の良い発色団含有候補を抽出した。
- ミトキサントロン、ピキサントロン、ダウノルビシン、エピルビシンは光照射で活性酸素を生成し、乳がん細胞への細胞毒性が高まった。
- 1分子で化学療法と光線力学療法の両方を担うため、2成分コンジュゲートが不要になる。
安全性とPKが既知の化合物から出発するのは賢く、CMCも毒性の説明もすでに揃っている。ただしこれらの発色団の吸収波長は組織透過性が低く、アントラサイクリン由来のROSは心毒性の懸念も増やす。期待する前に、in vivoでの光照射量の許容域を見たい。
アルブミン搭載Fe(III)錯体が三陰性乳がんでフェロトーシスと免疫活性化を誘導
- Fe(III)化合物群を最適化して得たFe4はTNBC細胞に強い毒性を示し、ヒト血清アルブミンのナノ粒子(HSA-Fe4)に製剤化された。
- 構造解析により、Fe4はHSAのIBサブドメインに結合し、His-146が鉄中心に配位することが示された。
- in vivoでFe4とHSA-Fe4は、フェントン型の化学動力学療法、フェロトーシス、免疫活性化を通じて腫瘍の増殖と転移を抑えた。
アルブミン結合部位を配位ヒスチジンまで特定している点が、単なるナノ粒子論文との違いで、配位子SARの足がかりになる。一方、レドックス活性な鉄がフェロトーシス、フェントン反応、免疫を同時に動かすため要因の切り分けは難しい。効果を評価する前に、正常組織への選択性を確認したい。
2026-10-18 4件
3H-1,5-ベンゾジアゼピン誘導体がマイクロモル域の抗マラリア活性、標的候補にPfSET3
- 3H-1,5-ベンゾジアゼピン18種を合成し、クロロキン感受性・耐性の熱帯熱マラリア原虫で評価、HepG2毒性で初期の選択性を確認した。
- 複数の化合物が低マイクロモル域で活性を示し、最も強力な化合物と選択性に優れる化合物は別だった。
- 主要2化合物はヒトG9aへの阻害は弱く、ドッキング・MM-GBSA・MDで原虫PfSET3への結合を推定した。
低マイクロモルの細胞活性で選択性の幅も狭いなら、まだリードではなく出発点だ。標的の主張はドッキングに依存しており、仮説の域を出ない。原虫のエピジェネティック酵素を狙う珍しいケモタイプという点は面白い。次はPfSET3の生化学アッセイと、選択性に優れた化合物周りのSAR展開を見たい。
BPTFのヒストンコード認識を手がかりに、ペプチド–低分子二価阻害剤を設計
- BPTFのPHD–ブロモドメインはH3K4me3とK14アセチル化の組合せを認識し、結晶構造で確認された。両者はシス配置を含め協調的に読み取られる。
- リガンド結合に伴う二つのリーダードメイン間の構造変化を、実験的に初めて示した。
- この知見から、両ドメインを阻害するペプチド–低分子コンジュゲートMJ-1を設計し、PHDフィンガーの標的化しにくさに対処した。
BPTFのブロモドメイン結合剤は多くが追ってきたが成果は限られ、難所はPHDフィンガーのほうだ。ペプチドから親和性を借りる二価設計は現実的な手だが、ペプチド・コンジュゲートは細胞膜透過性のあるリードには程遠い。どちらの半分が活性を担うのか、低分子だけで成立するのかを知りたい。
MYCの天然変性領域に結合するde novo設計タンパク質が腫瘍増殖を抑制
- 保存されたエピトープ(がん化活性に必要な天然変性モチーフを含む)を狙ってMYC結合タンパク質を設計した。
- in vitroで強く結合し、細胞内ではMYCに作用してMAXとの会合を阻害し、MYC関連複合体の構成を変えた。
- 血液・肝・膵・患者由来など複数のMYC依存性モデルで増殖が低下し、膵がん同所移植モデルでは結合体発現細胞が選択的に減少した。
MYCには低分子が入るポケットがないので、設計タンパク質で無秩序領域のエピトープを狙う発想は理にかなう。ただし細胞内発現で効いたことは送達の問題を何も解決しておらず、まずは標的バリデーション用の道具と見るべきだ。低分子のPPI阻害やデグレーダーがどこを狙えばよいかを示す地図としては価値がある。
mRNAディスプレイ由来の大環状ペプチドIMP2660が、エフェクター非存在下のRAB27A構造解析を可能に
- RAB27Aのエフェクター結合面を標的にmRNAディスプレイを行い、大環状ペプチドのヒットを得て最適化し、IMP2660に到達した。
- IMP2660はRAB27Aに強く結合し、RAB27A–エフェクター相互作用を阻害する。
- 活性型RAB27Aとの共結晶構造をエフェクターなしで取得でき、エフェクター結合面の構造ベース設計の足場になる。
見過ごされがちな成果は結晶化シャペロンとしての価値だ。野生型RAB27Aはエフェクターとの複合体でしか結晶化できなかったので、マクロ環結合構造が得られればソーキングやフラグメント研究が回せる。ただIMP2660が道具を超えるかは別問題で、細胞内GTPaseを狙う大環状ペプチドの膜透過性が最大の壁になる。
A potent macrocyclic peptide binder enables effector-free crystallization of the GTPase RAB27A ↗
2026-10-17 6件
スキャフォールドハイブリッド化から生まれた経口MRGPRX2拮抗薬INCB187175
- MRGPRX2はIgE非依存性のマスト細胞活性化を担い、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、偽アレルギー反応に関与する。
- スキャフォールドのハイブリッド化とSARにより、Gq/IP1とβ-アレスチン双方のアッセイで活性を示すピラゾロピリミジン系拮抗薬を得た。
- 溶解性とCYP阻害の問題を解消してINCB187175に到達し、複数種で経口曝露が得られ、ヒト初代マスト細胞の脱顆粒とin vivoのマスト細胞活性化を抑制した。
バイアスが薬理を濁しうる受容体で、Gqとβ-アレスチンの両読み出しで評価した点は妥当だ。溶解性とCYPの改善も、偶然のヒットではなく地道な最適化の話として読める。競合の多いMRGPRX2では、ヒトでの曝露と、ヒト限定の受容体に対する動物代替アッセイの外挿性が差別化の鍵になるだろう。
Discovery of Pyrazolopyrimidines as Potent and Orally Bioavailable MRGPRX2 Antagonists ↗
分子動力学でRhoJ特異的なN末端ポケットを発見、テルコナゾールがPAK3結合を阻害
- RhoJは配列上Cdc42とほぼ同一だが固有のN末端伸長部をもち、PAK3結合時にアロステリックポケットを形成することがシミュレーションで示された。
- このポケットを標的とした構造ベース仮想スクリーニングで、抗真菌薬テルコナゾールが結合候補として浮上した。
- 生細胞で最適化したBRET2バイオセンサーを用いると、テルコナゾールはRhoJ–PAK3相互作用を用量依存的に低下させた。
Cdc42にない配列伸長部で選択性を狙うのは、保存性の高いGTPaseを攻める定石だ。ただしテルコナゾールは転用アゾールで出発点としては心許なく、BRETの低下だけではポケット結合の証明にならない。N末端残基の変異導入と物理化学的な結合測定を経てから妥当性を判断したい。
Identification and targeting of a novel drug pocket in the tumour angiogenesis regulator RhoJ ↗
結晶構造で見る、脳移行性EGFR阻害薬が脳曝露だけでなく活性も高める理由
- 血液脳関門透過性を高める設計がなされたEGFR阻害薬について、X線結晶構造解析と活性測定を行った。
- BBB透過性を高める置換基はEGFRキナーゼドメインの多様な領域と相互作用し、生化学的・細胞活性は概ね向上した。
- 塩橋を形成する部分構造と特定のハロゲン置換の組み合わせが最も有効で、「一石二鳥」の設計指針を示す。
CNS曝露と活性はたいていトレードオフなので、同じ極性・塩基性ハンドルで両方を得られるという結晶学的根拠は有用だ。塩橋とハロゲンの組み合わせは、自分のキナーゼ系列にも試せる具体的な設計則になる。ただし排出や非結合型脳内濃度には触れておらず、実際の有効性はそこで決まる。
Structural Insights into Brain-Penetrant EGFR Tyrosine Kinase Inhibitors with Enhanced Potency ↗
セレブロンの潜在Cys287を狙う共有結合リガンドがE3リガーゼを開状態に固定し、IMiD駆動の分解を阻止
- システイン指向のケモプロテオミクススクリーニングで、サリドマイド結合部位から離れたアロステリックポケットCys287に結合する共有結合リガンドを同定した。
- リード化合物VVD-105917は、IMiDやCELMoDによるネオ基質の分解を広く阻害する。
- クライオ電顕で、セレブロンを開いた不活性型に固定することが示され、リガンド添加順序にも依存する。同部位の既報リガンドは逆に閉鎖を促進するため、このポケットは作用が反転しうる。
これまでのCRBN薬は全て単一のオルソステリックポケットに結合するため、開閉スイッチを制御する共有結合ハンドルは本当に新しいつまみだ。パン阻害薬は分解薬の機序解析やオフターゲット分解のレスキューに優れたツールになる。どちらにも振れる部位ということは、分解を高めるリガンドが同じポケットに潜む可能性もある。プレプリントなので査読を待ちたい。
Allosteric covalent inhibition of cereblon through cryptic cysteine targeting ↗
アダマンタンキャップのインドール系ヒドロキサム酸YP200、HDAC11選択性を肺がんPDXモデルで実証
- 既報リードPB94を出発点に、インドール系ヒドロキサム酸のコア・リンカー・キャップをHDAC11向けに多面的に最適化した。
- 最良化合物YP200は、二級アミンリンカーとアダマンタン表面認識キャップを併せ持つ。
- HDAC11に対し高活性で他のHDACアイソフォームへの選択性も高く、患者由来NSCLC異種移植モデルで腫瘍増殖を抑えた。
ヒドロキサム酸はアイソフォーム間で綺麗に分かれにくく、選択性の主役が嵩高いアダマンタンキャップだという点が気になる。HDAC11の狭いチャネルは、亜鉛結合基よりキャップのサイズを重視するのかもしれない。HDAC11プローブの妥当性をめぐる議論も最近あるので、動態込みのアイソフォームパネルと細胞内標的結合の確認がほしい。
マッチした陰性対照つきの5-アザインドール系TTBK1/2プローブ、繊毛形成を阻害
- 5-アザインドール系化合物13は、タウチューブリンキナーゼ1・2に強力かつ細胞活性を示す。
- 細胞内キノーム全域の解析でオフターゲットは限定的で、NanoBRETによる追試でCDK11A/B、CK1δ、PIKfyveに絞り込まれた。
- 構造の近い化合物5は細胞内でTTBKに結合せず陰性対照として機能し、化合物13はTTBK2の自己リン酸化とRPE-1細胞の一次繊毛形成を阻害した。
評価したいのは姿勢の良さだ。細胞内キノーム選択性マップ、CDK11やPIKfyveの弱点の率直な開示、構造が近い不活性対照が揃っている。繊毛形成の表現型に生物学的意味を読む前に、プローブはこうあるべきだ。まず試したいのはCDK11の重なりで、別骨格のプローブで検証したい。
Potent and Cell Active 5-Azaindole-based Tau Tubulin Kinase Inhibitors Disrupt Ciliogenesis ↗
2026-10-16 8件
共有結合型ライブラリのハイコンテントスクリーニングで、新たな初期有糸分裂阻害剤を同定
- 紡錘体形成の初期異常を捉える、細胞ベースのハイコンテントイメージングスクリーニングを構築した。
- システイン反応性ライブラリ3,520化合物に適用し、微小管脱重合剤、紡錘体位置決定の撹乱剤、紡錘体構造や染色体整列に影響する化合物が見つかった。
- うち2化合物は有糸分裂停止とがん細胞の生存率低下を引き起こした(プレプリントで査読前)。
共有結合型ライブラリでの表現型スクリーニングは、標的ベースでは拾えないケモタイプを見つける理にかなった方法だ。弱点は標的同定で、システイン標的が分かるまでは、微小管脱重合剤もまた一つのチューブリン結合剤で終わる恐れがある。注目はチューブリン以外のヒットだ。
Identification of Cysteine-Reactive Early Mitotic Inhibitors ↗
ElevenostatはHDAC11選択的プローブではなく、HDAC6に偏る多重HDAC阻害薬だった
- Elevenostat(JB3-22)を組換えHDACアイソフォームと2種類の直交的HDAC11アッセイで再評価したところ、HDAC11阻害は弱かった。
- HDAC1〜11の全パネルでは、HDAC6とHDAC10およびクラスI酵素への阻害がはるかに強く、HDAC11が最も感受性の低いアイソフォームだった。
- 細胞内でもチューブリンやヒストンのアセチル化上昇と生存率低下が見られ、HDAC6とクラスIの関与と整合するため、この化合物に基づく過去のHDAC11の結論は再解釈が必要だ。
地味だが価値の高い論文だ。HDAC11のツールとして使われてきた化合物が、実はHDAC6に最も強く効く。Elevenostatで報告された表現型は、すべて帰属の見直しが必要になる。阻害薬をプローブとして使う前には、全パネルでの選択性と対照となる不活性化合物が要るという教訓でもある。
静止状態と不活性化状態をほぼ同等に阻害するNaV1.7アミノピリミジンプローブ
- 古典的な局所麻酔薬型のポア結合体を除外するよう設計した自動パッチクランプのスクリーニングで、アミノピリミジンのヒットを見出し、化合物6へ最適化した。
- 化合物6は静止状態と不活性化状態の活性がバランスし、NaV1.5に対する選択性と、NaV1.1を含むテトロドトキシン様のアイソフォーム特性を併せ持つ。
- SARから、アミノピリミジンコアとメチレン連結アニリンがこの特性の鍵を握ると示された。
NaV1.7計画が臨床で失敗し続ける理由として状態依存性は有力な容疑者で、静止・不活性化の両状態を等しく遮断するプローブはその仮説の検証に好適だ。NaV1.1への活性は痙攣関連の懸念材料になり得るので、プロファイルを深読みする前に結合部位の同定が欲しい。
A Nontoxin Aminopyrimidine Probe for Near State-Independent Na V 1.7 Inhibition ↗
EGFRキナーゼ阻害薬の骨格からキナーゼ活性を除き、BAX阻害薬へ転換
- バーチャルスクリーニングで、ダコミチニブやゲフィチニブ類似骨格などのEGFR阻害薬がBAX結合候補として抽出された。
- 系統的な構造修飾でBAX阻害のSARを構築し、EGFRキナーゼ活性を大きく低減した。
- この系列は、試験管内・細胞・iPS由来脳オルガノイドでBAX阻害の改善を示し、薬物様性も良好だった。
BAXのような実行因子を阻害するのは難しく、実績あるキナーゼ骨格から出発するのは現実的だ。ただ勝負はEGFR活性が十分に消えているかで、キナーゼにも効く細胞保護薬は神経保護薬として使いにくい。BAXへの直接結合を示す直交的な証拠と、より広いキナーゼパネルでの確認が欲しい。
スキャフォールドホッピングで得たBCL6 PROTAC、DLBCL細胞で標的を分解し経口でも異種移植腫瘍を抑制
- BCL6リガンドBI-3802からのスキャフォールドホッピングにより、新規の三環性オキサジノキノリノン骨格が得られた。
- リンカーとCRBN認識部位を最適化した化合物15は、CRBN・プロテアソーム依存的にBCL6を速やかかつ強力に分解した。
- BCL6依存性DLBCL細胞の増殖を強く抑え、経口投与でOCI-LY1異種移植モデルの腫瘍増殖を、明らかな毒性なく抑制した。
BI-3802は重合を介する独特な機序で分解を起こすため、新しい三環性コアから従来型のCRBN型PROTACを組むのは、BCL6除去の別ルートとして価値がある。肝心なのは経口で効いた点で、分子サイズと膜透過性をどう折り合わせたのか、またOCI-LY1以外の細胞株でも分解の深さが腫瘍応答と相関するのかを確かめたい。
GTA182:MTAP欠失腫瘍向けの脳移行性MTA協調型PRMT5阻害薬
- 構造ベース設計と多パラメータ最適化により、MTAP欠失細胞を野生型より強く選択的に抑える三環性アミドGTA182が得られた。
- 低い排出と調整された物性により、有効域に入る非結合型脳内濃度が確保された。
- 経口投与でMTAP欠失異種移植モデルと同所性膠芽腫モデルで腫瘍退縮を示し、第I相でも忍容性は良好で頭蓋内腫瘍の縮小が報告された。
MTA協調型PRMT5阻害薬は競合が多く、差別化の決め手は脳内曝露だ。膠芽腫ではMTAP欠失が多いのに、多くの競合薬は腫瘍に届かない。創薬化学の論文に臨床データまで載るのも珍しい。次に見たいのは、このクラス共通の弱点である血液毒性と、頭蓋内での効果がどこまで非結合型濃度で説明できるかだ。
クライオEM構造に基づくポケット統合で、経口アロステリックSLC6A19阻害薬を創出
- SLC6A19/シンロミド複合体のクライオEM構造で見つかったアロステリックポケットを標的にバーチャルスクリーニングを行い、出発ヒットを得た。
- 別のクライオEM構造で見つかった一部重なる第二ポケットを踏まえ、両者を融合する類縁体を設計し、強力で選択的な経口化合物20に到達した。
- 化合物20はマウスよりサルのSLC6A19に対して活性が高いが、経口投与で尿中アミノ酸排泄を用量依存的に増加させた。
膜輸送体でこれほど構造主導の設計が綺麗に決まる例は少ない。クライオEMで見つけた2つのポケットを統合し、尿中の簡便な指標でin vivoのPDまで確認している。マウスで活性が落ちる点は効力試験では厄介だが、霊長類で活性が保たれるのは安心材料だ。次はアミノ酸枯渇に対する安全域を知りたい。
HTS基盤でtauとLRP1受容体の結合を阻害する低分子を同定
- 精製したLRP1リガンド結合ドメイン4を軸に、蛍光偏光、スプリットルシフェラーゼ、TR-FRETからなる定量的アッセイ群を構築した。
- tau、RAP、ペプチドリガンドは重なる結合部位を競合し、いずれの形式でもナノモル域の親和性が観察された。
- このプラットフォームのスクリーニングで相互作用を阻害する低分子が見つかり、tauの取り込みと伝播を抑える出発点となる。
受容体の細胞外ドメインとのタンパク質間相互作用は難標的で、3種の直交アッセイでアーティファクトを除くやり方は妥当だ。ヒットは、細胞でのtau取り込み阻害を示し、ApoEなどLRP1の他のリガンドへの広範な影響が無いと確認されるまで慎重に見たい。
High-Throughput Screening Identifies Small-Molecule Inhibitors of the Tau-LRP1 Interaction ↗
2026-10-15 6件
mRNAディスプレイ由来マクロ環がCHD4をNuRD複合体の相互作用ハブと示す
- CHD4のSANT-SLIDEドメインに対するmRNAディスプレイで、NuRD複合体形成の要となるGATAD2Aとの相互作用を阻害する小型マクロ環状ペプチドが得られた。
- スクリーニングはCHD4上の第二の結合部位も示唆し、CDK2AP1がそこに結合することを確認、CHD4–GATAD2A–CDK2AP1三者複合体の構造も決定された。
- NuRDの破壊は胎児型ヘモグロビンの発現を誘導し、鎌状赤血球症などβヘモグロビン異常症に対する実証済みの治療戦略である。
一回のセレクションでヒットと生物学的知見の両方が得られた点が秀逸だ。タンパク質間相互作用面に乗るマクロ環はそのままでは創薬向きとは言いにくく、三者複合体の構造を手がかりに細胞膜透過性のある分子へ小型化できるかが私の関心事。CHD4上の第二部位はその新たな足がかりになる。関連リモデラーへの選択性も確認したい。
シンコナアルカロイド由来アンモニウム塩が長時間・感覚選択的な神経ブロックを実現
- 天然物シンコナアルカロイドを母核とするアンモニウム塩を局所麻酔薬として検討し、二環性のキンコリジン骨格が非環状・単環状類縁体より優れていた。
- リード化合物CLA-1-3はラット坐骨神経を50時間以上遮断し、電位依存性ナトリウムチャネルを強力に阻害した。
- 別の化合物CLA-3-5は0.30〜0.60%の濃度で最大約3時間続く感覚選択的な遮断を示した。
見出しは作用時間だが、より興味深いのは常時荷電したアンモニウムという設計だ。投与部位からの洗い流しが遅くなり、長時間作用の理由になっていそうだ。ただ50時間を超える遮断なら、有効性より先に局所の神経毒性・筋毒性のデータを見たい。
Cinchona Alkaloids-Derived Ammonium Salts for Long-Acting and Sensory-Selective Nerve Blockades ↗
二環式アミンへの置換でインダゾール系LRRK2阻害薬のG2019S選択性が拡大
- 構造ガイドのハイブリッド化でインダゾール系LRRK2シリーズを構築。初期のピペリジン体は高活性だが、野生型とG2019S変異体の差がほとんどなかった。
- ピペリジンをオクタヒドロシクロペンタ[c]ピロールに置換すると、活性を保ったまま選択性の幅が拡大。化合物34がこの新規ケモタイプを代表する。
- 著者らは、次世代のパーキンソン病向けLRRK2阻害薬に向けた新たな出発点と位置づけている。
柔軟なピペリジンを縮環二環に固定するのは選択性を磨く定石で、今回は成功したようだ。ただ炭素骨格が増えた分の脂溶性と脳移行性のコストは入れ込む前に確認したい。CNS標的はどちらにもシビアだ。変異体優先の選択性が酵素アッセイだけでなく細胞でも保たれるかも要確認。
経口の非ペプチド型STAT6分解薬WW-210がマウスのアトピー性皮膚炎を改善
- 先行のリン酸化ペプチド型STAT6 PROTACを、経口投与を意図した非ペプチド型分解薬に置き換えた。
- WW-210は極めて低い濃度でSTAT6を分解し、他のSTATファミリーに対する選択性の幅も広い。
- 測定可能な経口バイオアベイラビリティを示し、血液と脾臓でSTAT6を分解。アトピー性皮膚炎モデルマウスで皮膚病変の改善、血清IgEの低下、肥満細胞浸潤の減少が見られた。
STAT6は平坦で極性の高いSH2面をもつ転写因子で、阻害薬が苦戦しやすく、分解薬なら回避できる典型的な標的だ。ホスホペプチドから出発したPROTACで経口曝露を得た点が真の成果。分子量と極性をどう抑えたか、またSTATファミリー選択性が初代T細胞でも保たれるかを知りたい。
HTS由来の共有結合性阻害薬が活性型GTP結合KRAS G12Cを標的に
- 既存のKRAS G12C薬は主に不活性なGDP型を捕捉し、耐性も報告されている。本シリーズは活性型のGTP結合状態を狙う。
- HTSで得たケトインドリジン骨格とアニリン由来アクリルアミドが、switch-IIポケットのCys12に共有結合。結晶構造では、ワーヘッドがGTPアナログのγリン酸と相互作用していた。
- 最適化で得た化合物17は前臨床動物種で経口吸収性を示し、KRAS–cRAF結合とERKシグナルの阻害を持続させ、膵臓がん異種移植モデルで完全退縮を示した。
γリン酸を使ってワーヘッドを位置決めする発想が巧みで、GTP型への選択性がポケットだけでなくヌクレオチド自体に由来する。比べたいのはRAS(ON)三者複合体阻害薬で、あちらはシクロフィリンAを要するが本系は不要だ。アクリルアミドの反応性とプロテオーム全体でのシステイン選択性も、GDP型結合薬以上に重要になる。
共有結合フラグメントがSHP2アロステリック・ラッチ部位のリジンに到達
- 求電子剤先行型の共有結合フラグメントスクリーニングとリガンド先行型の戦略を組み合わせ、ホスファターゼSHP2のアロステリック・ラッチ部位のリジンを標的とした。
- 計算と実験の両面から結合様式が裏づけられ、この部位で初の強力かつ細胞活性をもつアロステリック共有結合阻害薬を得たと著者らは述べる。
- ラッチ部位が共有結合的に攻略可能であることを示し、新たなSHP2アロステリック骨格への道を開く。
リジンを狙う共有結合化学はシステインよりはるかに少なく、SHP2そのものよりも、リジンで細胞活性ヒットを実際に出せるワークフローが収穫だ。気になるのは反応性と安定性のバランスで、リジン向け求電子剤は加水分解や可逆性の問題を抱えやすい。プローブと呼ぶ前にプロテオーム全体の選択性データがほしい。
Fragment-Based Covalent Targeting of Lysines at the Allosteric Latch Site of SHP2 ↗
2026-10-14 8件
ベンゾチオフェンの最適化で結核菌MprBヒスチジンキナーゼを阻害、病原性を抑制
- 先行ヒットBTP15はMprB阻害でファゴソーム脱出を防ぎ、結核菌による宿主細胞死を抑えるが、薬物動態が不良だった。
- 新規ベンゾチオフェン誘導体を、MprB阻害、ミクロソーム安定性、毒性、THP-1およびMRC-5細胞でのex vivo効果で評価した。
- 菌を直接殺さず病原性だけを阻むアプローチで、耐性圧力を下げられる可能性がある。
抗病原性戦略は紙の上では魅力的だが、殺菌性の指標なしで有効性を示すのが難所だ。BTP15の弱点はPKだったので、安定性の改善がin vivo曝露につながるか、そして感染細胞でMprBの標的結合がきれいに示されているかを最も注意して見たい。
エルトロンボパグからDCL1191へ、「undruggable」なTFEBの経口阻害薬
- 長らくundruggableとされた転写因子TFEBに対し、TFEB阻害活性とTpo-Rアゴニスト活性を併せ持つエルトロンボパグを出発点にした。
- SAR最適化でDCL1191を得た。TFEBに結合してDNA結合を阻害し、Tpo-RやMITFへの活性は低い。計算とミュータント解析が結合モードを支持する。
- TFEB標的遺伝子の転写を抑えてオートファジー流束を遮断し、経口バイオアベイラビリティを示す。オートファジー亢進型の膠芽腫細胞で活性があった。
既存薬の副次活性から入る戦略は、ドラッグライクな性質を引き継げるので転写因子攻略として賢い。本当の試金石はMITF/TFE3ファミリーで、近縁パラログへの選択性が保てれば、オートファジー風味の細胞毒ではなく本物のツール化合物になる。
L2ループに届くHDAC6阻害薬を共結晶構造で設計、肺がん細胞でオートファジーを誘導
- 先行化合物とゼブラフィッシュHDAC6触媒ドメインの結晶構造をもとに、第2世代のHDAC6阻害薬を設計した。
- 2つのリード化合物の共結晶構造でL2ループのS531との相互作用を確認。細胞ではヒストンのアセチル化に明確な変化なく、アセチル化チューブリンが増加した。
- 1化合物はオートファジー経路の活性化を介してA549細胞の2D・3D培養での生存率を低下させ、相分離にも影響した。
アイソフォーム選択性を狙うならL2ループが本命だ。CD2ポケットは保存されているがループは違う。ヒストンが動かずアセチル化チューブリンだけ上がるのは、選択性を信じる前に見たい読み出しだ。ただオートファジーの話に乗る前に、HDAC全体のパネルとPKは確認したい。
N-ヒドロキシインドール系PDIA3阻害薬、呼吸器ウイルスに広く効く宿主標的抗ウイルス薬
- 糖鎖修飾されたウイルスエンベロープタンパク質のフォールディングに関わる小胞体酸化還元酵素PDIA3は、未開拓の宿主標的である。
- AV22に代表される新規N-ヒドロキシインドール-2-カルボキサミド類がPDIA3を阻害し、主要なヒト呼吸器ウイルスに幅広い活性を示した。
- コロナウイルス感染細胞では非感染性粒子の放出が増え、スパイクのジスルフィド結合形成が低下した。
宿主標的の抗ウイルス薬は耐性を回避できるが、PDIA3は非感染細胞でも実際に働くので、治療域がすべてだ。N-ヒドロキシ基も個人的には赤信号で、金属結合と代謝の弱点のどちらも効いてくる。まず細胞毒性マージンとミクロソーム安定性を見たい。
計算で選んだビルディングブロックで、40万種のペプチド様DELの多様性を拡張
- 3サイクルのペプチド様DEL(403,200化合物)を構築し、市販アミノ酸4,774種の化学空間モデルで不足しているビルディングブロックを特定した。
- 3種類の標的に対するアフィニティ選択でライブラリ性能を比較した。
- 炭酸脱水酵素IIに対する選択で既知のスルホンアミド型ファーマコフォアが得られ、計算支援設計の妥当性を示した。
CA IIでスルホンアミドが戻るのは想定内のサニティチェックであり、リード様空間をカバーした証明ではない。ペプチド様DELは大きく極性の高いヒットが出がちなので、選択された化合物のうちDNAを外して使える物性領域に入るものがどれだけあるか、残り2標的の結果がどうだったかで評価したい。
チアゾールアミド系PI4KIIIβ/HDACデュアル阻害薬、宿主標的でHCVに挑む
- HCVでは直接作用型抗ウイルス薬への耐性が課題だが、宿主因子PI4KIIIβとHDACのデュアル阻害はこれまで報告がなかった。
- チアゾールアミド系デュアル阻害薬を設計・合成し、評価した。
- リード化合物は両標的に強い酵素阻害を示し、抗HCV活性も確認された。
DAAで大半が治癒する現在、宿主標的のHCV薬は事業面で説明が難しく、PI4KIIIβ/HDACのデュアルは毒性リスクも増やす。マルチターゲット設計としては良い演習だと読むが、治療域が本物と言えるには細胞毒性とキナーゼ選択性のデータがほしい。
経口STING阻害薬D4、重症急性膵炎モデルで膵障害を軽減
- SAR展開でD4を見いだした。STINGに直接結合し、オリゴマー化とTBK1/IRF3シグナルを阻害する。
- マクロファージでは貪食能、オートファジー流束、ミトコンドリア機能を回復させ、NLRP3関連のパイロトーシスを抑えた。
- D4は経口曝露が得られ高用量でも忍容性が良好で、セルレイン/LPSモデルで膵障害と酵素値を低下。STINGノックダウンでも同様の保護が見られた。
STINGはがん向けのアゴニストを追う例が多く、急性炎症に経口阻害薬という選択は毛色が違う。ノックダウンで表現型が再現されるのは機序面で安心材料だが、STINGのリガンドポケットは種差が大きいことで悪名高い。種間での挙動と、患者で急性期の投与窓が現実的かは確かめたい。
Discovery of Novel STING Inhibitors for the Treatment of Severe Acute Pancreatitis ↗
ミレパチン由来ハイブリッドがチューブリンとHDAC8を同時阻害、卵巣がんモデルで効果
- 天然物ミレパチンにHDAC阻害薬の主要ファーマコフォアを融合し、チューブリン/HDACデュアル阻害薬を構築した。
- リード化合物6は12種のがん細胞株に広く抗増殖活性を示し、チューブリン重合とHDAC8を阻害。HDAC1、4、6に対してHDAC8選択的だった。
- 卵巣がん異種移植モデルで、良好な安全性とともに腫瘍増殖を抑制した。
HDAC8は定番のHDAC6/クラスIよりも競合が少なく、チューブリン結合部位との組み合わせは機序として筋が通る。ただデュアルハイブリッド特有の懸念は残る。2つの活性が足並みをそろえて伸びることは稀なので、in vivo効果にチューブリン側だけでなくHDAC8阻害も寄与している証拠がほしい。
2026-10-13 5件
長く半剛直なリンカーがVHL型HDAC6分解薬を駆動、抗白血病活性を示す
- 固相合成法により、ボリノスタット由来HDAC6 PROTACのVHLリガンド、出口ベクター、リンカーを系統的に変化させた。
- 長く半剛直なリンカーで分解が最も効率的になり、主要化合物はMM.1SおよびMV4-11細胞でHDAC6を優先的に分解した。
- HDAC阻害活性がほぼ同等の非分解性対照は増殖抑制が明らかに弱く、分解そのものが効いていることを示した。
酵素阻害を揃えた非分解性対照は、分解と単なる阻害を切り分ける実験で、結果はPROTACに有利だ。ただボリノスタット類似弾頭では選択性が排他的でなく優先的にとどまる点が弱みで、より高選択的なリガンドに替えれば改善しうる。
フェルラ酸ベースのPROTACがTLR4を分解し血管内皮を保護
- 活性の弱い天然物フェルラ酸を基にしたPROTAC 6種を作製し、HUVECでTLR4分解と細胞遊走を評価した。
- 主要化合物FP-4はTLR4を分解し、TLR4/MyD88–NF-κBシグナルとTNF-α、ICAM-1、VCAM-1の発現を抑えた。
- ゼブラフィッシュでも保護効果が確認され、PROTACの応用をがん以外へ広げた。
弱い天然物リガンドをPROTACで救う発想は巧みだが、TLR4は膜受容体であり、どのE3リガーゼが関与するか、三者複合体への依存性を示す証拠はまだ薄い。機構を信じる前に、リガーゼ阻害薬やプロテアソーム阻害薬によるレスキュー実験を見たい。
G蛋白質経路に完全偏向したGPR183作動薬TUG-2604、オキシステロール並みの効力
- 拮抗薬NIBR189に由来する仮想スクリーニングヒットを構造活性相関で最適化し、G蛋白質シグナルに完全に偏向したGPR183完全作動薬を得た。
- 主要化合物TUG-2604は、内因性オキシステロール7α,25-OHCと同等の効力・効果を示しつつ、β-アレスチン2を動員しない。
- 単独ではヒト樹状細胞の遊走を誘導せず、オキシステロール誘導の遊走を阻害した。
拮抗薬由来のヒットを完全作動薬に変え、しかもG蛋白質側に偏らせるのは容易でなく、遊走の結果はβ-アレスチン側が走化性を担う可能性を示唆する。炎症領域でGPR183を評価するなら、2つのシグナル経路を切り分けるきれいなツールになる。
Development of Potent G Protein Pathway-Biased GPR183 Agonists ↗
スキャフォールドホッピングで2-OG非競合型KDM6B阻害薬を発見、子宮頸がん異種移植で有効
- スキャフォールドホッピングに基づく仮想スクリーニングで、子宮頸がんで高発現するJmjC型脱メチル化酵素KDM6Bに対するジアリールピリミジン-グアニジン系列を見いだした。
- 最適化化合物は酵素阻害活性でGSK-J4に匹敵するが、2-オキソグルタル酸に対して非競合という点で、多くのJmjC阻害薬と作用様式が異なる。
- 酵素レベルではpan-KDM阻害を示したものの、C33A細胞ではH3K27me3を選択的に上昇させ、異種移植腫瘍の増殖を抑えた。
JmjC阻害薬は2-OG結合部位の化学と極性の重さに悩まされがちなので、非競合型の系列は別の出発点になる。酵素段階のpan-KDM活性が細胞でH3K27me3選択性に変わる理由と、グアニジンが膜透過性に与える影響を知りたい。
STK33男性避妊薬インダゾールの溶解性とCLK4オフターゲットを改善
- CDD-2807の母核である3-(ビフェニルエチニル)-1H-インダゾールについて、構造活性・構造物性相関を調べ、低い速度論的溶解度の改善を図った。
- CDD-3094はナノモルの細胞活性を維持しつつ溶解性を高め、hERG阻害を低減し、広範なキナーゼパネルでもクリーンだった。
- 共結晶構造に基づき主要オフターゲットCLK4を回避する改変を行い、選択性の高い生化学ツールを得たが、細胞活性は低下した。
溶解性はCDD-3094で解決し、次に選択性を得た代わりに細胞活性を失うという、物性と活性のトレードオフの典型例だ。安全性の基準ががん領域よりはるかに高い避妊薬では、生の活性よりCLK4の識別が重要で、次の課題は膜透過性の回復になる。
2026-10-12 6件
ドネペジル由来のBuChE/FAAHデュアル阻害薬をアルツハイマー病向けに設計
- ドネペジルを基にした誘導体を設計・合成し、ヒトブチリルコリンエステラーゼとFAAHの二重阻害薬として評価した。
- リード化合物G15は両酵素をバランスよく阻害し、活性はサブマイクロモルからマイクロモル域だった。
- セリン加水分解酵素阻害薬で問題になりやすいカルボキシルエステラーゼCES1/2に対しても一定の選択性を示した。
二重標的ハイブリッドで両酵素にバランスよく効かせるのは難しく、G15は有用な出発点になる。ただしカルボキシルエステラーゼへの選択性は控えめで、多標的という狙いを信じるにはin vivoの曝露データが欲しい。
インダゾールと二環式ピロリジンのハイブリッド骨格で変異体選択的LRRK2阻害薬を探索
- インダゾールとオクタヒドロシクロペンタ[c]ピロールを構造指針で組み合わせ、パーキンソン病向けの新しいLRRK2阻害薬骨格を得た。
- 初期のピペリジン含有アナログは高活性だったが、野生型とG2019S変異体の区別はほとんどつかなかった。
- ピペリジンを縮環二環式アミンに置き換えることで、この選択性の幅を広げようとした。
野生型とG2019S変異体の差が小さいことはLRRK2リードが行き詰まる典型的な理由で、変異体への偏りを生む骨格変更は注目に値する。細胞内の生理的ATP濃度でもその偏りが保たれるか、二環式アミンが脳移行性とクリアランスにどう影響するかを見たい。
ビスカテコール型シデロフォアがアンピシリンを多剤耐性緑膿菌へ送達
- 細菌の鉄取り込み系を利用するトロイの木馬戦略で、β-ラクタム薬をグラム陰性菌の外膜越しに届ける設計。
- アンピシリンをモノカテコール、ビスカテコール、カテコール–ヒドロキサム酸型のシデロフォアに結合し、系列を比較した。
- ビスカテコール型結合体が選択的で、多剤耐性緑膿菌にまでアンピシリンの効果を広げたと報告されている。
古いペニシリンを送達担体の変更だけで緑膿菌に効かせた点は、シデロフォア戦略の明快な実証だ。次に確認したいのは血清中でのリンカー安定性と、耐性菌が取り込み受容体の発現を落とすだけで逃れてしまう可能性である。
酸化されやすいチオエーテルをラクタム架橋に置換したIL-11拮抗ペプチド
- IL-11結合ペプチドの酸化に弱いチオエーテルをラクタム架橋に置き換え、リンカー長を系統的に検討した。
- 最適化したアナログ4L6–16は、IL-11に良好な親和性で結合し、元のペプチドより強い拮抗作用を示した。
- 腎線維症の細胞モデルと動物モデルの両方で腎保護効果が確認された。
チオエーテルからラクタムへの置換はペプチド安定化の定石だが、保存性だけでなく拮抗活性まで改善した点は心強い。結合はまだ中程度のナノモル域で詰める余地があり、次に知りたいのは血漿中のタンパク質分解耐性だ。
Development of a Lactam-Bridged Peptide as Interleukin-11 Antagonist for Renal Fibrosis Treatment ↗
動力学的ターゲットガイド合成で高活性なヒドロキサム酸型LasB阻害薬を取得
- 既存の結晶構造を手がかりに、動力学的ターゲットガイド合成で緑膿菌の病原因子エラスターゼLasBの阻害薬を組み上げた。
- 広範なSAR検討により、非常に高活性で、ヒトのオフターゲット群に対する選択性も良好なヒドロキサム酸阻害薬を得た。
- 化合物はLasBによる肺上皮細胞の傷害を抑え、in vivoでの有効性を示し、肺内曝露は生化学的活性を上回った。
酵素自身に最適なフラグメントの組み合わせを選ばせる手法は、金属プロテアーゼのポケットを攻める賢い入り口だ。肺内PKが生化学活性を上回るというデータは抗病原性プログラムに欠けがちな点でもある。ヒドロキサム酸は代謝や亜鉛結合の難点を抱えるので、他の金属酵素へのオフターゲット評価がまず気になる。
ビスホスホン酸をマスクして酸性スフィンゴミエリナーゼ阻害薬の細胞内活性を向上
- 酸性スフィンゴミエリナーゼのアミノビスホスホン酸阻害薬ARC39をマスクし、細胞への取り込みを改善した。
- マスク化誘導体は細胞でナノモル域の活性を示し、親化合物より約2桁強力だった。
- 細胞内取り込みや安定性などの性質も詳しく調べられている。
ホスホン酸のマスク化は見慣れた手法だが、ASMには強力で細胞活性のあるツールが乏しく、細胞での約100倍の向上はターゲットバリデーションの面で意味が大きい。ASMが働くリソソームでマスクがきれいに外れるかが、プローブで終わるかリードになるかの分かれ目だ。
Masked Bisphosphonate Inhibitors of Acid Sphingomyelinase: Improved Cell Penetration and Potency ↗
2026-10-10 7件
脳移行性のコルヒチン部位チューブリンリガンド、神経膠腫の臨床候補に
- 脳腫瘍で承認されている脳移行性の経口薬はテモゾロミドとボロシデニブのみで、新たな選択肢が求められている。
- SAR研究から脳移行性の高いチューブリンリガンドの新クラスが見つかり、共結晶構造でコルヒチン部位への結合と、コルヒチン結合状態に対してβT7・αT5ループが反転した構造が確認された。
- 置換基への感受性が高く不可欠な部分構造は少ないことがSARで示され、化合物40が臨床候補に選ばれた。
実際に血液脳関門を通過するチューブリン結合剤は、P-gpによる排出か神経毒性で脱落するのが常なので、脳曝露が高く構造活性相関が締まった系列は目を引く。βT7/αT5ループの反転は、手元のコルヒチン部位骨格をドッキングし直す価値がある手がかりだ。慢性投与での神経毒性は依然として問題として残る。
DNMT1 PROTAC「B7」、肝線維症で触媒機能と非触媒機能を同時に遮断
- DNMT1は触媒作用と非触媒作用の両方で線維化を促すため、DC-517を出発点に、両機能を同時に抑えるPROTAC分解誘導薬を設計した。
- リード化合物B7はDNMT1をユビキチン・プロテアソーム系で分解し、細胞実験でゲノム全体のDNAメチル化を低下させ、線維化促進反応を抑えた。
- 動物実験でもB7はDNMT1の発現を下げ、コラーゲン沈着の減少と肝機能の改善という形で肝線維症を軽減した。
活性部位阻害薬では足場としての役割が残るため、DNMT1は阻害よりも分解が理にかなう典型例だ。気になるのは肝臓への選択性と、増殖組織で必須の維持型メチル基転移酵素を除いたときの影響で、線維症モデルはどちらにも甘い。
ボロン酸型ENPP1阻害薬、腫瘍環境のpH変動下でも活性を維持
- ENPP1は腫瘍微小環境でcGAMPを加水分解し、STING依存の抗腫瘍免疫を弱める。
- リン酸型阻害薬STF-1084を手がかりに、ボロン酸を亜鉛結合基とする非ヌクレオチド系阻害薬を設計し、pH変動に強い化合物36を得た。
- 化合物36は培養系でcGAMP介在のSTING活性化を高め、同系CT26腫瘍モデルでは単剤で腫瘍増殖を抑制し、オキサリプラチンとの併用で相乗効果を示した。毒性は認められなかった。
リン酸・ホスホン酸型のENPP1リガンドは膜透過性と曝露に苦しんできたので、ボロン酸の亜鉛結合基への置換は筋の良いルートだ。酵素が働く酸性環境での活性を狙った設計が巧い。ただ腹腔内投与での単剤効果は控えめで、次に知りたいのは経口曝露とボロン酸の安定性だ。
Development of pH-Resilient Boronic Acid ENPP1 Inhibitors for STING-Mediated Cancer Immunotherapy ↗
結合速度論を活用してHDAC2選択的阻害薬KTT-1を発見
- 酵素と阻害薬の結合について熱力学だけでなく速度論も評価することで、HDAC2選択的阻害薬KTT-1(化合物12)を見いだした。
- HDAC2との複合体のX線結晶構造とモデル化合物の量子化学計算から、2-フラニル基が選択性に寄与すると考えられる。
- 細胞では高度に相同なHDAC1よりHDAC2を優先的に阻害して神経突起伸長を促し、ストレス脆弱性マウスでは記憶とうつ様行動を改善した。
HDAC1/2の活性部位はほぼ同一だが、IC50だけでなく滞留時間で選別すれば突破口になる。フラニル基の寄与が結晶構造とQMの両面から裏づけられているのも検証しやすい。細胞でHDAC2優先を示す例は珍しく、脳内曝露を伴うニューロンでの再現を見たい。
キメラ型Hsp90β選択的阻害薬、選択性を保ちつつPKを調整
- Hsp90の汎阻害薬は幅広い阻害が災いして臨床評価が進まず、インダゾロン系のHsp90β選択的化合物が追求されてきたが、薬物様性の確保に長い最適化を要していた。
- 本研究は、北側のインダゾロン部とその南西側の置換基を同時に修飾し、各領域の長所を組み合わせられるかを検証した。
- 得られたキメラ型阻害薬は、Hsp90βへの親和性と選択性を保ったまま、主要な薬物動態パラメータを調整できた。
独立に最適化した2つのベクターを統合するのは堅実な一手で、それでも選択性が保たれたのは、β特異的なポケットが想像以上に改変に寛容だということだろう。決め手になるのは組織曝露と忍容性で、汎阻害薬が躓いたのもまさにそこだ。
DELヒットから脳移行性の可逆的MAGL阻害薬MAGLi 432へ
- DNAエンコード化合物ライブラリー(DEL)由来のビシクロピペラジン系ヒットを構造ベースで最適化し、可逆的MAGL阻害薬である化合物1.5(MAGLi 432)に到達した。
- 高い活性、他のセリンヒドロラーゼに対する選択性、CNS創薬に適した性質を兼ね備え、ラットでの経口半減期も良好だった。
- ヒト脳ホモジネートでMAGLを阻害し、マウス神経炎症モデルでも有効性を示した。最適化はトランスレーショナルな「Five-Star Matrix」の枠組みで進められた。
慢性投与でCB1の脱感作に悩まされた不可逆型MAGL薬を思えば、まず注目すべきは可逆性だ。非共有結合のDEL由来ケモタイプでヒト脳組織でも標的結合を確認できているのは良い雛形で、ヒト組織での評価を終盤でなく早期に回す習慣は真似したい。
ライブラリーの0.1%未満のスクリーニングでQPCT/L阻害薬BI-3614を獲得
- QPCTとゴルジ体局在のQPCTLはN末端グルタミンをピログルタミン酸へ変換し、Aβオリゴマー化、ケモカインの安定性、CD47–SIRPαシグナルに関わる。
- 既知阻害薬の生理活性コンフォメーションとの類似性に基づき、社内ライブラリーの0.1%未満を選ぶ仮想スクリーニングで新規ケモタイプが得られ、ヒット探索が大きく加速した。
- キナゾリジノン系列の構造ベース最適化により、従来の阻害薬より活性が向上した細胞用ツール化合物BI-3614が得られた。
ライブラリーの0.1%未満しか回さずに新しいケモタイプが出たのは、コンフォメーション類似性検索の効率の良さを示している。従来のQPCT阻害薬は金属結合基に依存していたので、細胞で働く新系列はCD47のピログルタミン酸化の研究に歓迎だ。まず確認したいのはQPCTとQPCTLの選択性である。
2026-10-09 6件
ポーズ予測の精度は、骨格あたり結晶構造約5個で頭打ちに
- オープンサイエンスのCOVID Moonshotによる403件のSARS-CoV-2主プロテアーゼ構造を用い、新規結晶構造をいくつ取得する価値があるかを検証した。
- 類似リガンドの参照構造が最良のポーズ予測を与え、成功率はBemis-Murcko骨格あたり約5構造で頭打ちとなり、リード系列では95%を超えた。
構造生物学に具体的な予算の目安を与える結果で、骨格あたり約5構造を超えると、追加のソーキングがポーズ予測に与える利得は小さい。ただしMproは剛直で扱いやすいポケットなので、柔軟なキナーゼや誘導適合型の標的にこの数字をそのまま当てはめるべきではない。
How Many Crystal Structures Do You Need to Trust Your Docking Results? ↗
物性駆動設計で吸入sGC刺激薬frespaciguatを創出、COPD合併肺高血圧向け
- 経口sGC刺激薬は全身性低血圧や換気血流不均衡の悪化を招き得るため、肺に局在させる設計が求められた。
- SARとPKの検討から、高い全身クリアランスと低い膜透過性が肺選択性の鍵と判明した。
- 化合物15(frespaciguat、MK-5475)は極めて強力で標的結合滞留時間が長く、吸入後の非結合型肺/血漿曝露比は200倍超。ラット慢性低酸素モデルで有効性を示した。
高クリアランス・低透過性をあえて狙う設計は経口薬の発想と逆で、吸入剤プログラムに有用な指針となる。滞留時間と肺内保持の組み合わせが、ヒトで治療域として再現するかを確認したい。
親油性を管理した最適化でPERK阻害薬APL-11056に到達
- 文献由来で活性は中程度ながらキナーゼ選択性とPKに優れるPERK阻害薬を出発点に、log DとLLEを指標にリード最適化を進めた。
- その結果、強力かつ選択的で、生体内PKに優れるPERK阻害薬APL-11056(化合物49)が得られた。
- 高い膜透過性は、コアのベンズアミドのα位にあるフッ素と関連しており、排出トランスポーターによる認識を抑えていると考えられる。
活性を追うのでなくLLEでSAR全体を導いた姿勢が読み解きやすさを生んでいる。ベンズアミドα位のフッ素で排出を回避する手法は、自分のアミド系列にも使えそうだ。PERKのISR生物学は過去に阻害薬を苦しめた経緯があり、PK表よりも忍容性データが重要になる。
経口POLQポリメラーゼ阻害薬、オラパリブ併用でBRCA2欠損腫瘍を退縮
- POLQはマイクロホモロジー媒介末端結合を担い、相同組換え修復欠損がんで合成致死の標的となる。
- 弱い生化学的ヒットの最適化によりベンゾイミダゾール/プリン系阻害薬が得られ、化合物37は強力・選択的で経口活性を持つ。
- BRCA2欠損DLD-1細胞で増殖抑制とオラパリブの増強を示し、HR正常細胞では効果なし。オラパリブとの慢性経口投与で異種移植腫瘍が退縮した。
経口で、しかもHR欠損環境に選択的なポリメラーゼ阻害薬は、この標的に欠けていたものだ。HR正常細胞で効かないという対照が要となる。次は耐性と、ヘリカーゼ領域を狙うアプローチとの比較を見たい。
スルホニウム修飾ペネモカンジンがクリプトコッカスの自然耐性を克服
- 天然物pneumocandin B0骨格への共有結合的なスルホニウム修飾により、Candidaに有効で、Cryptococcus neoformansの自然耐性も覆す誘導体が得られた(MIC最小2 μg/mL)。
- 修飾は真菌膜の透過性を高めて脱分極を起こし、グルカン合成酵素の阻害も強めた。
- 化合物3hと5hは耐性獲得リスクが低く、安全性とPKも良好で、生体内でも抗真菌効果を示した。
エキノキャンディンはクリプトコッカスに効かなかったため、膜に作用するカチオン性基を足して活性を戻すのは、検証済み骨格の巧みな再利用だ。膜破壊は選択性の幅を狭めるリスクがあるため、宿主細胞毒性と作用機序の寄与配分を精読したい。
ULK1選択的PROTAC、阻害薬より長くオートファジーを抑制
- ATP競合型阻害薬ではULK1とほぼ同一のULK2を見分けにくいため、セレブロンを動員する分解誘導剤が設計された。
- 構造指導型の最適化でMR-9036が得られ、ULK2やIMiDのネオ基質に影響せずULK1のみを分解する。三者複合体形成とプロテアソーム依存性も確認された。
- 化合物除去後も、臨床段階のULK1/2阻害薬DCC-3116より長くオートファジー抑制が持続し、KRAS G12C変異NSCLCモデルで抗腫瘍効果を示した。
パラログ間の選択性は、占有率駆動の薬剤に対して分解誘導剤が優位に立てる領域で、これはその好例だ。次に見たいのは、生体内でULK2の代償が起きるか、そして実際の薬物曝露下でも洗い流し後の持続性が保たれるかである。
2026-10-08 3件
ラノステロール誘導体を最適化、BBBを透過しADマウスでAβ蓄積を抑制
- ラノステロールは凝集抑制作用を持つが物性とPKが乏しいため、3位水酸基と脂肪族側鎖まわりの親水・疎水バランスを調整した。
- 系統的なスクリーニングで化合物10を見いだし、代謝安定性と物性が大きく改善した。
- 化合物10の経口投与は、アルツハイマー病モデルマウスで記憶障害を回復させ、Aβ蓄積を減少させた。
天然物ステロールが最初のPK評価を越えるのは稀で、3位水酸基と側鎖の極性調整で経口のCNS曝露を得た点は参考にしたい。気になるのは作用機序で、単一マウスモデルの有効性は過大評価しやすく、標的への結合実証とステロール経路へのオフターゲット影響のデータが欲しい。
キラルなイミダゾキノリン、立体化学でTLR7/8の作動・拮抗が変わる
- キラルなイミダゾキノリンのライブラリーを合成し、HEK-Blue hTLR7/hTLR8レポーター細胞で評価した。
- SAR検討により、強力なTLR7/8デュアルアゴニストと、同じ系列のデュアルアンタゴニストが見つかった。
- 活性は立体化学に依存し、両エナンチオマーがTLR7/8の結合ポケットで異なる相互作用をするためと考えられる。
同じイミダゾキノリン系列から、立体化学を軸にアゴニストとアンタゴニストの両方が得られた点は、両エナンチオマーを早期に作る価値を示している。アジュバントや自己免疫の開発では有用な切り替えだが、レポーター細胞だけではヒット止まりで、初代細胞でのサイトカイン評価が欲しい。
特許ハイライト:複製ストレス関連がん向けカルボキサミド系PKMYT1阻害薬
- PKMYT1はG2/M期チェックポイントでCDK1を抑える酵素で、阻害すると早期の分裂期突入とDNA損傷の蓄積を招き、がん細胞が死に至る。
- 本特許概説は、新規カルボキサミド系阻害薬シリーズの設計、合成、治療上の可能性をまとめている。
- ATR阻害薬、PARP阻害薬、化学療法、放射線療法の効果を高める可能性にも触れている。
データではなく特許の整理なので、競合動向の資料として読む。キナゾリン系が混み合うPKMYT1領域にカルボキサミド骨格が加わったことは、知財の陣取りが急速に進んでいることを示す。実施例でヒンジ結合部位を確認し、PARP/ATR併用をどこまで前面に出しているかを見たい。
Novel Carboxamide-Based PKMYT1 Inhibitors for Replication Stress-Associated Cancers ↗
2026-10-07 5件
BI-4020由来のマクロ環状PROTACがC797S耐性EGFRを分解
- HQY1480は第4世代マクロ環状EGFR阻害薬BI-4020を母核とするPROTACで、リンカーとE3リガンドを系統的に最適化している。
- 臨床的に重要な複数のEGFR変異体を低ナノモル濃度で分解し、プロテオミクスでもオフターゲット分解は検出されなかった。
- 異種移植モデルでBI-4020を上回り、オシメルチニブ耐性モデルでも有効で、患者由来異種移植でもEGFRを分解した。
従来のTKIではなくマクロ環から出発した点が巧い。EGFR PROTACがウォーヘッドから引き継ぎがちな薬物動態と選択性の弱さを避けられるからだ。次に知りたいのは、新たな耐性変異に対して分解活性が保たれるか、そしてマウス以外でも良好なPKが再現されるかである。
シアノキノリン系HIPK4阻害薬、非ホルモン性の男性避妊薬への道
- HIPK4は精子細胞に特異的で精子頭部の形成に必要なキナーゼであり、非ホルモン性避妊薬の標的候補である。
- シアノキノリン系の化合物群は、HIPKファミリー内でもキノーム全体でも選択的な強力HIPK4阻害薬となった。
- 一部の化合物は精子細胞でHIPK4の恒常性も変え、不溶性凝集体を形成させてオートファジー受容体TAX1BP1との相互作用を促した。
初期の化合物群でキノーム全体の選択性が出ているのはプローブとして理想的だ。予想外のタンパク質恒常性への作用は、調節可能な分解型に近い作用様式を示唆していて興味深い。ただ避妊薬としては、可逆性と長期安全性の証明という非常に高い壁が残る。
Small-Molecule Modulators of HIPK4 Activity and Proteostasis ↗
OGG1の触媒を切り替える「有機触媒スイッチ」がミトコンドリアを保護
- OGG1ではこれまで阻害薬の研究が中心だったが、本研究はミトコンドリアに濃縮するORCAで酵素の触媒そのものを再プログラムする。
- 生化学、変異解析、X線結晶構造により活性部位への結合が確認され、グリコシラーゼ活性よりβ脱離を優先的に促進した。
- ORCAは酸化ストレス下のミトコンドリア機能を保護し、皮質ニューロンのNADを高め、網膜軸索切断モデルでも神経保護を示した。
酵素を阻害でなく活性化する例はまれで難しく、作用機序を示す結晶構造があることが説得力を生んでいる。課題は長期安全性だ。修復酵素の触媒結果を変えれば想定外のDNA損傷を生む恐れがあり、神経保護のデータもまだ初期段階である。
Development of Organocatalytic Switches of OGG1 that Protect Mitochondria under Oxidative Stress ↗
水素結合ドナーを減らした4-アミノキナゾリン系PKMYT1阻害薬、CCNE1増幅がんへ
- 4-アミノキナゾリン系PKMYT1阻害薬で、水素結合ドナーをアクセプターへ置き換えてドナー数を減らし、薬物らしさを改善した。
- リード化合物12fは酵素阻害がナノモル域で、卵巣がん細胞OVCAR-3に強い増殖抑制を示し、PARP阻害薬との併用で相乗効果があった。
- 経口PKも許容範囲で、OVCAR-3異種移植で有効性を示し、忍容性も良好だった。
HBDの削減は、キナーゼ系列で膜透過性と経口曝露を改善する明快で応用しやすい手だ。PARP阻害薬との相乗効果は事業面でも面白いが、PKMYT1は競合が多い。他のキナーゼへの選択性と、臨床先行品との比較を確認したい。
イストラデフィリン由来のチエノピリミジノン系、大腸炎向け経口NLRP3阻害薬
- 抗パーキンソン病薬イストラデフィリンに中程度のNLRP3阻害活性があり、その最適化でチエノピリミジノン系化合物群が得られた。
- リードL22はイストラデフィリンの約10倍強力で、NLRP3のNACHTドメインに直接結合しインフラマソームの形成を阻害した。
- 経口バイオアベイラビリティがあり、DSS誘発大腸炎モデルで症状を軽減し、急性・亜急性毒性試験でも安全性は良好だった。
上市薬のオフターゲット活性から出発すれば薬物らしさで先行でき、NACHTドメインへの直接結合も望ましい。ただNLRP3は競争が激しく、臨床段階の阻害薬と比べた活性と曝露で、L22の真価が問われる。
2026-10-06 4件
構造ベース設計でpan-YTHDF型m6Aリーダーの高活性リガンドを創出
- YTHDF1、YTHDF2、YTHDF3は細胞質でm6A修飾mRNAを読み取るタンパク質で、このプレプリントはそれらを標的にしたタンパク質構造ベースの創薬化学研究を報告しています。
- 狙いは、リーダーを1つずつ狙うのではなく、3つのパラログすべてに結合するリガンドです。
- アブストラクトの冒頭部分のみ確認できたため、活性や細胞データは本稿では扱っていません。
YTHドメインの芳香族ケージは電荷を帯びた攻めにくいポケットなので、構造に基づく前進は追う価値があります。3つのリーダーの冗長性を考えれば、パラログ全般に効くリガンドは理にかなった選択です。プローブと呼ぶには、YTHDC1/2への選択性と細胞内での標的結合の証拠が欲しいところです。
AML向けFTO阻害薬の新規骨格、ピリダジン含有ニコチンアミド
- ピリダジンを含むニコチンアミド67化合物のSAR展開から、最も活性の高いFTO阻害薬E6が得られ、MST、CETSA、DARTSで結合が確認されました。
- E6はMOLM-13細胞に活性を示し、全体のm6Aを上昇させ、ASB2とRARAを増加、c-Mycを低下させました。
- CYPに対する安全性とPKは許容範囲で、MOLM-13異種移植腫瘍の増殖も抑えました。
FTO阻害薬としては新たな系列ですが、注目すべきは新規骨格そのものです。FTOのケモタイプはまだ少なく、既報の多くは似た構造モチーフに頼っています。活性は中程度なので、E6は出発点と捉え、細胞での表現型を重視する前にALKBH5など他のAlkBファミリーに対する選択性を確認したいところです。
原子1つの違いでCRBN分解薬がNSD2選択的からGSPT1選択的へ反転
- NSD2分解薬LLC0424はGSPT1にも作用しますが、原子を1つ変えるだけで、NSD2選択的な424-NDとGSPT1選択的な424-GDという近縁の2化合物が得られました。
- 424-NDは前立腺がん細胞でアンドロゲン受容体シグナルを抑え、424-GDは統合ストレス応答を誘導しました。
- バイオレイヤー干渉法で標的ごとに異なる三者複合体の協同性が示され、シミュレーションでは安定な立体配座の違いが選択性の差を説明しうるとされています。
分解選択性を決めているのは二者結合の親和性ではなく三者複合体の協同性で、SARの表にまさに載せたいデータです。これほど近い一対の化合物は、NSD2とGSPT1のプローブセットとしてそのまま使えます。プロテオーム全体での選択性と、細胞内でも協同性の傾向が保たれるかを確認したいところです。
Single-Atom Modification Enables Reversal of Degradation Selectivity between NSD2 and GSPT1 ↗
アジド導入VEGFR2阻害薬、網膜に届く緑色光で活性が上昇
- アジド基を導入したVEGFR2阻害薬EYE1090とEYE1118は、暗所でも強い阻害活性を保ちつつ、光照射で受容体への結合が促進されます。
- 高齢者の網膜にも届く緑色光で、in vitroの血管新生抑制活性が高まりました。
- 経口投与で、ラットのVEGF誘発網膜漏出を抑え、マウスの脈絡膜新生血管モデルで病変を縮小し、急性肝毒性は見られませんでした。
光スイッチにアジドを使うのは、古典的なキナーゼ骨格への小さく巧みな修飾です。魅力は空間選択性で、全身曝露しつつ光が集まる眼内でだけ活性が高まります。暗所活性がどこまで残るか(眼以外でのVEGFR2オフターゲット作用に直結します)と、光反応生成物の行方を確かめたいところです。
Three Nitrogen Atoms Turn Old Kinase Inhibitors Into New Targetable Remedy ↗
2026-10-05 4件
経口GSPT1分解グルーLG-NE-29、イソインドリノン骨格でグリオブラストーマモデルに有効
- 生存率を指標にした表現型スクリーニングで、テモゾロミドへの耐性が速やかに生じるグリオブラストーマ細胞において、GSPT1が弱点であることが見いだされました。
- イソインドリノン骨格を代謝安定性の観点から最適化し、CRBN依存的なGSPT1のユビキチン化とプロテアソーム分解を誘導する分子糊LG-NE-29が得られました。
- 初期世代の骨格が抱えていた代謝上の弱点を克服し、経口バイオアベイラビリティを備え、グリオブラストーマの異種移植モデルで有効性を示したと報告されています。
イソインドリノン系CRBNグルーは代謝で脱落しがちなので、その弱点を潰した点にまず注目です。ただ鵜呑みにはできず、GSPT1のDC50とDmax、プロテオーム全体での選択性(IKZF1/3など他のネオ基質)、脳移行を含む経口PKを確認したいところです。GSPT1分解は細胞傷害性が強いため、正常細胞に対する治療域も気になります。
初の合成PAPP-A阻害薬が細胞内およびin vivoでIGF-1シグナルを抑制
- PAPP-Aは分泌型メタロプロテアーゼで、IGF結合タンパク質を切断して局所のIGFシグナルを制御する。IGF-1R標的に代わるアプローチとなり得る。
- IGFBP-5由来のアンカー配列を基盤に、切断される結合をホスフィン酸またはホスホン酸に置換し、強力で選択的な化合物を得た。
- クライオ電顕で活性部位への結合様式が示され、IGFBP-4およびIGFBP-5の切断を阻害した。
- A549細胞でstanniocalcin-1と同程度にIGF-1シグナルを抑制し、in vivoでもPapp-aa依存的なシグナルを阻害した。
IGFBP-5由来アンカー配列の切断結合をホスフィン酸やホスホン酸に置き換えるのは典型的な遷移状態模倣で、クライオ電顕の結合ポーズは亜鉛配位の仮説を裏づける材料になる。IGF-1RではなくプロテアーゼのPAPP-Aを狙う発想は、選択性の面で理にかなう。ただしプレプリントなので、近縁メタロプロテアーゼに対するKi値と、ペプチド性リードの安定性・膜透過性を確認してからin vivoの結果を評価したい。
セラミド模倣スルホンアミドKPB82、選択的ACER2阻害剤としてbioRxivプレプリントで報告
- ACER2はセラミドをスフィンゴシンと脂肪酸に加水分解する酵素で、これまで薬理学的ツールは存在しなかった。
- ドデカンスルホンアミドにセラミド様のヒドロキシフェニルプロピル基を持つKPB82は、ACER2を強力に阻害し、酸性・中性セラミダーゼへの作用は小さく、ACER1・ACER3は阻害しなかった。
- 速度論は競合阻害を示し、AlphaFold3モデルへのドッキングでZn2+配位ヒスチジン近傍の基質ポケットに結合すると予測された。
- タイトルによれば、腫瘍細胞と初代細胞をドキソルビシンの細胞毒性から保護する。
ACER2にはこれまでツール化合物がなく、競合的でACER1/ACER3を避けるヒットは貴重だ。ドデカンスルホンアミドにヒドロキシフェニルプロピル基という構造はセラミド模倣そのものだが、Zn2+ヒスチジン近傍のドッキング姿勢はAlphaFold3由来の仮説にすぎない。ドキソルビシン保護を信じる前に、IC50値、SAR系列、細胞内でのターゲット結合を確認したい。
シクロオクチンのクリックでCope脱離を誘起し、Michael受容体ウォーヘッドを活性化してペイロードを放出
- Michael受容体をヒドロキシルアミンでマスクし、シクロオクチンとの生体直交反応でCope脱離を起こして、温和な条件で求電子部位を再生します。
- 不飽和カルボニル、シアノ、スルホニル、ホスホネート、マレイミドなど幅広いウォーヘッドに適用でき、活性化速度も調整できます。
- 機能化シクロオクチンを使えば、イメージング用などのペイロードを同時に放出でき、活性化を示すシグナルが得られます。
- 共有結合性阻害剤に応用し、細胞内で制御された活性化が示されました。
マスクしたウォーヘッドは、アクリルアミド系リードのオフターゲット反応性をついに解決できるのでしょうか。Michael受容体をヒドロキシルアミンで保護し、シクロオクチンのクリックで解除する設計は、トリガーを加えた場所でだけ共有結合性をオンにできる点が巧みです。ただしアブストラクトだけでは判断できないため、速度定数、ヒドロキシルアミン体が標的親和性を保つか、シクロオクチンの大きさや脂溶性が通常のウォーヘッドと比べてどうかを確認したいところです。
2026-10-04 4件
アリールアルキルエーテル系CD73阻害薬LB10、肺がんモデルで経口活性
- CD73はアデノシン経路の律速酵素で、腫瘍免疫抑制に関わる標的です。
- アリールアルキルエーテル骨格を設計し、LB10が生化学・細胞アッセイの両方で高い活性を示す最有望化合物となりました。
- 酵素動力学と共結晶解析により、競合阻害であることが確認されました。
- 細胞毒性は目立たず薬物動態も良好で、同系Lewis肺がんモデルへの経口投与により、単剤でも併用でも腫瘍増殖を抑えました。
経口で使える非ヌクレオチド型のCD73阻害薬という点が肝です。初期の強力な化学型の多くはAMP類似で、膜透過性やクリアランスの問題を抱えていました。競合型を裏づける共結晶構造があるので、エーテルリンカー周りのSARを進める足場としては使いやすそうです。ただ、可溶型と膜結合型酵素への挙動やヒトで意味のあるアデノシン読み出しを見るまでは、期待を抑えておきたいところです。
PROTACの近縁リンカー類縁体をターナリー複合体スコアで順位づけできるか:マッチドポーズ検証
- 標的タンパク質分解におけるリンカー最適化は、いまも経験則に頼る部分が大きい領域です。
- このプレプリントは、合成前に近縁のリンカー類縁体を計算で順位づけできるかを、これまでで最も小さな化学的差異で検証します。
- VHLを動員するSHP2分解薬でマッチドポーズ設計を採り、リンカーの影響だけを切り分けています。
- 査読前のプレプリントであり、利用できた要旨が限られるため結果の詳細は割愛します。
PROTACの開発で合成に何か月も費やすのがリンカーの微調整なので、ほぼ同一の類縁体を計算で見分けられるかを正面から試す研究は、派手なベンチマークより役に立ちます。マッチドポーズにすれば、手法が単に構造を外しただけという言い訳も使えません。否定的な結果でも、ドッキングスコアに頼らず分解活性や協同性のアッセイを組み続けるべきだと示してくれるので価値があります。
GPCRをリソソームへ送る二重特異性GTACで受容体を拮抗
- GTACは、受容体結合部位とトランスフェリン受容体(TfR1)結合部位を組み合わせた二重特異性抗体です。
- オルソステリック部位を塞ぐのではなく、GPCRのエンドサイトーシスとリソソーム分解を誘導します。
- ウイルス由来のBILF1、がん関連のRXFP1、免疫系のCCR6など、創薬が難しい標的で実証されました。
- 構成的活性も含めてシグナルを完全に抑え、従来の抗体拮抗薬を大きく上回る効力を示しました。
受容体そのものを分解するので、GPCRで毎度つまずく「きれいなオルソ/アロステリック低分子が見つからない」問題を迂回でき、逆アゴニストでも抑えきれない構成的シグナルも断てます。手元の創薬に引きつけると、抗体フォーマットゆえ経口投与や組織移行は期待できず、TfR1動員に伴う分布や安全性の課題も残ります。それでも、化学が行き詰まったGPCRに対する現実的な別メカニズムになり得ます。
GPCR antagonism via rewiring of receptor trafficking and degradation ↗
ソフトドラッグ:外用薬に迅速で予測可能な不活化を組み込む設計
- 作用後に代謝で速やかかつ予測可能に不活化されるよう設計する、ソフトドラッグの総説です。
- 多くは実績あるリード化合物の近縁体で、加水分解を受けやすい基(しばしばエステル)を意図的な弱点として組み込みます。
- 皮膚局所での活性を保ちつつ全身曝露を抑えたい、開発中の外用ソフトドラッグを取り上げています。
- 実用上の留意点、残る課題、今後の方向性にも触れています。
外用リードを最適化している立場から言えば、代謝の弱点は後から潰す欠点ではなく、設計の入力変数だということです。皮膚では保たれ血漿中では速やかに消えるようエステルの不安定性を調整するのは、SARで追いやすい課題で、全身安全性に関わる作業もかなり減らせます。リスクはお決まりで、種差や皮膚と血液のエステラーゼ差により、前臨床のクリアランスが当てにならないことがあります。
2026-10-03 6件
二機能性OGTACがOGTを標的タンパク質へ誘導しO-GlcNAcを付加
- OGT/OGA阻害は数千の基質に影響するため、タンパク質ごとのO-GlcNAc機能の特定は難しく、OGTACは目的タンパク質へOGTを動員することでこれに対応する。
- 各OGTACはOGT結合要素、リンカー、標的認識モチーフから成り、TPRドメインによる基質認識を部分的に迂回し得る。
- 有効なO-GlcNAc付加には適切な三者複合体形成と非阻害的なOGT結合が必要で、標的認識モチーフが標的範囲と選択性を決める。
- 局所的な付加は、タンパク質の分解、シグナル伝達、転写の変化と結び付けられている。
ここはOGT結合部位がすべてだと思う。OGTを阻害してしまえば、本来向け直したい活性そのものを失うので、非阻害的な結合剤の取得がSAR上の本当の壁になる。分解誘導剤のE3リガンド選びと似た構図だ。選択性をOGTのTPRドメインではなく標的認識モチーフが決める点もモジュール型で魅力的。ただしAccounts形式の総説なので、標的横断でどこまで通用するかを見てから評価したい。
Chemically Induced Proximity for Targeted Protein O-GlcNAcylation ↗
コイルドコイルのマスクで、腫瘍プロテアーゼに切られるまでT細胞エンゲージャーを不活性に保つ
- 抗CD3 Fab(OKT3、UCHT1)にロイシンジッパー型コイルドコイルを切断可能なリンカー経由で融合して立体的にマスクし、PSMAまたはHER2を標的とするナノボディと組み合わせた。
- マスクによりCD3結合は大きく低下し、プロテアーゼ切断で大部分が回復した。組換えCD3でもT細胞上のCD3でも同様であった。
- マスク型はJurkat細胞を活性化せず、マスク解除型は活性化した。
- MMP2で切断されるリンカーを持つ型は、PBMC共培養でPSMA陽性およびHER2陽性がん細胞をMMP2依存的に殺傷し、オンターゲット・オフ腫瘍毒性の抑制を狙う。
魅力はマスクがモジュール式な点だ。切断リンカーを差し替えれば、同じロイシンジッパーの足場を別のプロテアーゼ向けに調整できる可能性があり、設計を一つに固定するより柔軟だ。気になるのは切断後と非マスク型の結合の差で、回復は「大部分」であって完全ではない。MMP2も腫瘍に厳密に限定された酵素ではない。ここで示されたのはJurkatとPBMC共培養のみなので、オフ腫瘍の安全性は目標であって、まだデータではない。
入口チャネル標的設計でNNRTIリードJK-4bの細胞毒性を低減
- JK-4bは野生型および臨床HIV-1変異株に強力な活性を示すNNRTIだが、高い細胞毒性のため開発が中止されており、本研究ではこれをリードとして新規誘導体を設計した。
- NNRTIの入口チャネルを狙う構造ベース設計により、細胞毒性が低く選択性の高いシリーズが得られた。
- 主要化合物9nは、二重変異株を含む代表的な耐性変異株に対して強い活性を保ち、エトラビリンと同程度であった。
- 9nはチトクロームP450阻害が小さく、ヒト肝ミクロソームでの代謝安定性も良好で、さらなる開発が期待される。
お蔵入りしたリードの救出は、ゼロから始めるより面白い。JK-4bには活性も耐性株カバーもすでにあったので、問われたのは入口チャネルとの相互作用で細胞毒性を切り離せるかどうかだ。9nのプロファイルが再現するなら、毒性はファーマコフォアに固有ではなく骨格の調整で動かせたことになる。二重変異株でエトラビリンに並び、P450阻害も微小、ミクロソーム安定性も良好という点は、さらに合成を進める前に確認したかった材料そのものだ。
第一世代の経口GLP-1薬から学ぶ、次世代分子の設計指針
- danuglipron、lotiglipron、DA-302168S、orforglipronなど臨床に進んだ非ペプチド性GLP-1受容体作動薬を事例とし、それぞれが経口化の課題をどう解決したかを検討している。
- これら第一世代の分子になお残る設計上の課題も整理している。
- 次世代の戦略として、ペプチド模倣体の設計、マルチターゲット作動薬、オルソステリックとアロステリックの協調性の活用を提案している。
- スクリーニングカスケード、前臨床動物種の選択、製剤化、早期の安全性評価といった実務面にも触れ、他の難しいGPCR標的への示唆も述べている。
臨床に進んだ4つのケモタイプは、大きなペプチドを認識するクラスB GPCRという同じ難題への、4通りの答えだ。この手のレビューで知りたいのは、生き残った分子それぞれの背後にあるSAR上の理屈である。追いかけたいのはオルソステリックとアロステリックの協調性で、活性と膜透過性のトレードオフを緩められる可能性がある。ただ成否はスクリーニングカスケードや動物種の選択次第で、プログラムが躓きやすいのもそこだ。
JNKシグナルの遮断でKRAS G12D阻害薬に耐性の膵がん細胞が再び感受性を示す
- KRAS G12D阻害に適応した膵がん細胞は、JNK経路をより完全に抑えることで感受性を回復させることができる。
- MAP2K4、MAP2K7、または両者に対する選択的な共有結合性阻害剤を用い、必要なJNK抑制の程度を調べた。
- JNKをより強く遮断すると、耐性細胞でKRASシグナルを再活性化するフィードバック回路が働かなくなる。
- 阻害薬に感受性の細胞では効果が見られず、この脆弱性は耐性状態に特異的である。
これが裏付けられるなら面白いのは筋の通し方で、KRAS G12D阻害薬への耐性がJNKのフィードバックを介しているなら、再びKRASを叩くのではなく経路を組み替えるノードを狙うことになる。MAP2K4とMAP2K7への共有結合は、抑制をどこまで深くすべきかを問う巧い手だが、両キナーゼ間の選択性が実際のSARの悩みどころになるだろう。感受性の細胞に影響しない点は心強いが、まだ要旨レベルの話だ。
構造ベース設計でクラスIII RTKのオフターゲットを回避した野生型KIT選択的阻害剤
- クラスIII受容体型チロシンキナーゼ間ではATP結合部位が高度に保存されており、KITのみを選択的に阻害するのは難しい。本研究は構造ガイドの最適化でこの課題に取り組んだ。
- トリアゾロピリジン型ヒンジ結合部位が選択的な出発点となり、中央リンカーの変更により、活性と薬物動態が向上した「逆」アリールアセトアミド系列へ展開した。
- ピラゾールリンカーとヒンジ結合部位の修飾でヒト血清存在下でも活性を維持し、末端アリール基の調整でCYP時間依存的阻害が軽減され、キノーム選択性も向上した。
- 結晶構造から、ゲートキーパー近傍のリンカーの立体電子効果が選択性を左右し得ることが示され、慢性疾患治療に適したリード化合物が得られた。
目を引いたのはヒンジ結合部ではなくリンカーだ。ゲートキーパー近傍の立体電子効果が、クラスIII RTK間のATP部位の類似性では本来得られないはずの選択性を生んでいるらしい。混み合った他のキナーゼファミリーにも使えそうな手がかりだ。さらに、CYPの時間依存的阻害とヒト血清下での活性という問題を同じキャンペーンで解決している点も好印象で、慢性投与を見据えたリードという印象を受ける。
2026-10-02 7件
ネイティブMSで見えた、PROTACのリンカー長とウォーヘッドが三者複合体に及ぼす別々の影響
- イオンモビリティー、表面誘起解離、可変温度ESIを組み合わせ、2種のBETリガンド(JQ1とI-BET726)と異なる長さのPEGリンカーで作ったBRD4–PROTAC–VCB複合体を調べた。
- 短いリンカーでは複合体がより伸びた形に保たれ、長く柔軟なリンカーでは天然に近い緩んだ構造を取れる。
- JQ1の複合体は衝突でPROTACが脱離しやすく、結合の強いI-BET726の複合体は保持しやすい。融解挙動も異なった。
リンカー最適化は依然として経験頼みなので、構造が複合体界面にどう効くかを別角度で測れるのはありがたい。気相データは溶液中の協同性そのものではなく、これだけで分解薬を順位付けはしないが、細胞での分解活性と並べれば2つのウォーヘッドの挙動の違いを説明する助けになりそうだ。プレプリントなので、査読までは暫定的な結論と見ておく。
MicroEDで絶対配置を確定したキナゾリン系Nav1.7阻害薬、げっ歯類で経口鎮痛効果
- ライブラリー由来の弱いキナゾリンヒットから約20誘導体のSARを進め、Nav1.5に対する選択性を備えたサブマイクロモル活性のキラルリードを得た。
- 絶対配置はMicroEDで決定され、大きな結晶なしに活性エナンチオマーが明確になった。
- 経口曝露は許容範囲で、2種のげっ歯類疼痛モデルで効果を示し、44標的のオフターゲット試験もクリーン。Nav1.7ノックアウト神経細胞対照も標的特異性を支持する。
Nav1.7は選択性とトランスレーションで多くのプログラムが躓いてきた標的なので、まず見るのはオフターゲットの清潔さとノックアウト細胞での対照だ。ただ活性はまだ控えめで必要用量も高く、候補ではなく出発点の骨格と見るべきだろう。実務的な収穫はMicroEDで、初期リードのキラリティーをナノ結晶から決められればエナンチオマー探しの数週間を節約できる。
p300/CBP創薬:二機能性分解薬は従来型阻害薬を超えるのか
- p300/CBPのブロモドメインと触媒(HAT)ドメインを標的とする低分子阻害薬を総覧し、臨床段階の化合物がどう最適化されたかに重点を置いたパースペクティブ。
- 続いて、PROTACを含む二機能性の近接誘導分子へと研究が移っている流れをたどる。
- この大型・多ドメインの転写コアクチベーターに対し、各モダリティが何をもたらすかを比較している。
p300/CBPは、分解薬が分子量に見合う価値を持つ場面かどうかを試す好例だ。阻害薬では残ってしまう足場機能こそ、分解薬が取り除ける部分である。HATドメインとブロモドメインの最適化の経緯は、扱いにくいクロマチン標的を抱える人に参考になる。ただp300とCBPはほぼ同一なので、分解薬の項はパラログ選択性の点を割り引いて読みたい。
Direct-to-Biologyで見出した、他のHSP70に影響しないGRP78選択的阻害薬
- 高度に保存されたHSP70ファミリー内でのアイソフォーム選択性は難題であり、本研究はGRP78の基質結合ドメインのペプチド結合ポケットを標的にした。
- 精製せず粗反応液をそのまま評価するDirect-to-Biologyの手法で化合物12が見つかった。
- 生化学・物理化学・細胞熱シフト測定でGRP78との結合が確認され、他のHSP70に対して選択的で、小胞体ストレス応答を修飾しA549細胞を選択的に殺傷する。
ATP部位ではなく基質ポケットを狙うのはHSP70で選択性を稼ぐ堅実な方法で、D2Bなら改良の反復も安く済む。細胞株選択的な殺傷はUPR依存性なのかオフターゲットなのか分からないので慎重に見たい。CETSAなど直交的な結合データは心強く、次は構造が近い不活性アナログが欲しい。
Development of Isoform-Selective GRP78 Inhibitors from a Direct-to-Biology Strategy ↗
「2-in-1」設計でセレブロンリガンドをHDAC8キャップ部に統合、分解薬を小型化
- 二つのリガンドをリンカーで繋ぐ代わりに、セレブロン結合モチーフをHDAC8阻害薬のキャップ基に組み込み、一つの構造要素で両タンパク質に結合させた。
- 同グループの第一世代分解薬と比べ、分子量が小さく選択性と薬物様性が向上した。
- in vivoでもHDAC8を強く分解する。
PROTACの嵩高さは必要経費として受け入れられがちだが、E3リガンドをウォーヘッドのキャップ部に溶け込ませる発想はそこを正面から突いており、他の亜鉛酵素にも転用できる。気になるのは、共有モチーフがどちらの結合も損なわないか、セレブロンの新規基質選択性に影響しないかだ。in vivoの分解と物性が両立するなら、リンカーレス路線はもっと注目されていい。
A 2-in-1 Strategy for the Discovery of Compact HDAC8 Protac Degraders ↗
加齢で亢進するトランスサイトーシスを利用、ROS応答型DAPK1分解薬を脳へ送るBmTAC
- 神経変性疾患での分解薬は脳への送達が最大の壁であり、BmTACは加齢で亢進する脳血管内皮のカベオラ介在トランスサイトーシスを利用する大環状ペプチド・シャトルを搭載する。
- VHLリガンドに付けた活性酸素種応答性のケージにより、ROSの高い組織に到達するまでPROTACは不活性に保たれる。
- 活性型DAPK1を老化した脳で選択的に除去することを狙ったプラットフォームである。
侵入用のシャトルと活性化用のROSケージという二重のゲートは巧みな設計だが、課題は医薬化学からコンジュゲートのCMCやPKへ移る。末梢でケージが外れたPROTACの割合と、シャトルが老化した内皮の性質に依存する点(患者の適用範囲を狭めうる)は厳しく見たい。in vivoデータが堅ければ、CNS向け分解薬として確かな一歩だ。
DT-9081:スキャフォールドホッピングで生まれ、第1相を終えた経口EP4拮抗薬
- EP4阻害は、腫瘍内でPGE2が引き起こす免疫抑制を解除する免疫腫瘍学のアイデアである。
- スキャフォールドホッピングで活性と薬物動態が改善した新規シリーズを得て、SARを進めてDT-9081に至った。
- 強い拮抗活性、良好なADME、前臨床での良好な安全性を併せ持ち、固形がんでの第1相単剤試験を完了している。
すでにヒトのデータがある化合物の医薬化学の全体像が読めるのは、多くの「Discovery of」論文より珍しく有用だ。EP4は競合が多いため、新シリーズが既存の拮抗薬に対しPKと安全性でどう差別化しているかが焦点になる。スキャフォールドホッピングの論理を読みつつ、第1相の結果がチェックポイント阻害薬との併用効果につながるかを見たい。
2026-10-01 6件
アリールスルファメート、炭酸脱水酵素IX阻害薬として系統的SARを解析
- オルト・メタ置換アリールスルファメートを合成し、低酸素性固形がんで過剰発現するCA IXに対し、熱シフト、酵素阻害、生細胞競合アッセイで評価した。
- 最良の化合物はCA IXに非常に高い親和性で結合し、複数のアイソザイムとのX線構造から、親和性と選択性を担う官能基が明らかになった。
- pH依存性の結合データから、脱プロトン化した負電荷のスルファメート窒素が活性中心の亜鉛に配位する機構が示された。
CA阻害薬はスルホンアミドが主流なので、結晶構造に裏付けられたスルファメートのSARは、ケモタイプの幅を広げる有用な知見だ。腫瘍CA狙いのプログラムはCA I・IIへの選択性で頓挫しがちで、共結晶はそこへの具体的な手がかりになる。生細胞での競合データは組換え酵素のみの評価より信頼できるが、リード様と呼ぶには低酸素細胞での活性と物性も見たい。
Structure-Affinity and Selectivity of Aryl-Sulfamates as Inhibitors of Carbonic Anhydrase IX ↗
共有結合型シクリトールアジリジン、脳移行性で選択的なGBA2阻害薬を実現
- GBA2にはGBA1やグルコシルセラミド合成酵素と区別できる阻害薬がなかった。研究チームは、既報のβ-D-アラビノフラノース型活性ベースプローブを土台に、エポキシド、環状硫酸エステル、N-アルキルアジリジンなど求電子基をもつシクリトールの集中ライブラリーを構築した。
- GBA1、GBA2、GBA3、グルコシルセラミド合成酵素に対する評価で、GBA2に選択的な共有結合型阻害薬が見つかった。
- リード化合物は、GBA2をin vivoで選択的に不活性化する初の脳移行性共有結合型阻害薬と報告されている。
活性ベースプローブの骨格をin vivoツール化合物へ転換した道筋が見事で、GBA1やGCSに対する選択性こそGBA2研究に欠けていたものだ。スフィンゴ脂質やライソゾーム病に取り組む人には実用的なツールになる。気になるのは、in vivo曝露下での共有結合性オフターゲットで、アジリジンは穏やかな求電子剤ではない。
構造ベース設計のRXFP4アゴニスト、腸管に留まりマウス便秘モデルで有効
- RXFP4のクライオ電顕構造を手がかりに、RXFP3との高い相同性と腸管限局型の曝露という2つの壁を狙ったテトラヒドロイソキノリン系アゴニストを設計した。
- リード化合物44は強力なRXFP4アゴニストで、RXFP3への選択性が高く、血漿より回腸に強く偏る薬物動態を示した。
- ロペラミド誘発便秘マウスモデルで経口投与が有効だった。
ペプチド性GPCRで、ほぼ同じ形のパラログがある標的に低分子を載せるのが難所で、クライオ電顕構造でRXFP3選択性を稼ぐのは正攻法だ。まず見たいのは血漿よりも腸管に偏る曝露で、局所作用型なら全身性の副作用を避けられる。ただ、その回腸曝露の裏にある膜透過性、排出輸送体、代謝安定性のデータは確認したい。
アザフィロンプローブが、生きた細菌のプロテオームで反応性リジンを網羅的にマッピング
- 天然物スクレロチオリン由来の簡略化アザフィロン「SCL-alkyne」を、細菌でリジン反応性をプロテオーム規模で解析するために設計した。
- in vitroでも生きた大腸菌でもリジン選択性が高く、結合部位の大半はリジンかタンパク質N末端だった。反応性リジンのうち機能領域にあるのはごく一部にとどまった。
- 濃縮解析から細菌の走化性が主要な標的経路として浮かび、その後確認された。
共有結合リガンド探索はシステイン中心で、スルホニルフルオリドや活性エステル以外のリジン指向スキャフォールドは乏しいため、天然物由来の選択肢は魅力的だ。反応性リジンの多くは機能領域にないという知見は、反応性は安く機能は安くないという戒めになる。大腸菌でのプレプリントなので、リードではなく共有結合フラグメントの出発点と見るべきだ。
3つの化学選択的ルートで、セレブロン系PROTACを切断型プロドラッグに変換
- セレブロンをリクルートするPROTACはプロドラッグ化のための誘導体化が難しい。本研究は、トリアゾール四級化、三級アミンのアルキル化、ヒドロキシルリンカーの導入という3つの直交的な手法を示した。
- これらにより、放出速度を調整できる切断型プロドラッグが得られ、PEG化構造やボトルブラシ型プロドラッグにも組み込める。
- 代表例で、分解誘導薬の制御放出、in vitroでの抗がん活性、腫瘍集積、予備的なin vivo効果が確認された。
PROTACの本当の課題は三者複合体の協同性より体内曝露で、マスクして放出するモジュール式の手法は待望だった。グルタルイミドをもつ分子で化学選択性を確保した点が実務的で、再最適化なしに既存の分解誘導薬へ使えるなら再利用性は高い。血漿と腫瘍での放出の差と、マスク体が早期にセレブロンと結合しないかを確認したい。
Generalizable Strategies for the Synthesis of Cereblon-Recruiting PROTAC Prodrugs ↗
ヒトDNAグリコシラーゼ9種にわたる低分子阻害薬の公開スクリーニングデータセット
- 北欧の共同研究チームが、塩基除去修復を開始する11種のヒトDNAグリコシラーゼ向けに、ハイスループット生化学アッセイ基盤を構築した。
- ケモゲノミクスライブラリーを、ヒット判定に十分な品質のアッセイが得られた9種に対してスクリーニングし、一次データと濃度依存データ、新規の阻害薬を複数得た。
- データ、プロトコル、メタデータはすべて公開されている。
グリコシラーゼは創薬化学の世界で手つかずだったので、9種にわたる注釈付きの公開スクリーニングは、ヒット探索チームがそのまま掘り下げられる出発点になる。ケモゲノミクスライブラリーは標的注釈があり、作用機序や選択性の推定に役立つ。核酸酵素のスクリーニングは偽陽性が出やすいので、ヒットはまずアッセイ干渉やDNA結合体のアーティファクトを疑って確認したい。
A high-throughput screening dataset of small-molecule inhibitors across human DNA glycosylases ↗